桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
私はついに後宮の門をくぐった。

一度この門をくぐった女は、余程のことがない限り外へ出ることは許されない。

――そう思うと、背筋に冷たいものが走った。

「柳才女。部屋はこちらです。」

案内役の宦官に連れられ、長い回廊を抜けた先にあったのは、こぢんまりとした小部屋だった。

華やかな宮殿を想像していた私には、拍子抜けするような狭さだった。

「はぁ……今日からここで寝泊まりするのね。」

私は小さくため息をつき、持ってきた荷物を机の上にそっと置いた。

衣類や身の回りの道具、それに父から託された一本のかんざし。

実家を思い出させるものは、それくらいしかない。

後宮に入ったからといって、すぐに侍女がつくわけでもない。

身の回りのことはすべて自分で整えなければならず、急に広がった沈黙が心を締めつけた。

窓の外には美しい庭が広がっているのに、私の部屋はあまりに質素で、まるで見えない柵で囲われた牢のようにも思えた。

私は机の上の簪に触れ、深く息を吐いた。

――ここからが、私の新しい日々の始まりなのだ。
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