桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そんなある日、隣の部屋の戸が同時に開いた。

「……あっ。」

思わず声が重なり、顔を見合わせる。

偶然すぎる出会いに、私はくすりと笑った。

「こんにちは。」

相手の娘は、ふわりと花がほころぶように笑った。

可愛らしく、華やかな雰囲気を纏っている。

「えっと、柳小桃と申します。」

名を名乗ると、娘はぱっと表情を明るくして頷いた。

「李縁香です。よろしくね。」

それから縁香は、よく私の部屋に遊びに来るようになった。

「ええ?かんざし屋の娘さんだったの? 素敵じゃない。楽しそう!」

きらきらとした瞳で問いかけられ、私は思わず肩をすくめる。

「私はただ父の手伝いをしていただけよ。簪を作るのは好きだったけれど……。」

言葉を濁す私に、縁香は楽しそうに机の上の簪を手に取った。

「きっと皇太子様も、こんな美しい簪を着けたら喜ぶわ。」

私は苦笑しながらも、胸の奥がちくりとした。

――皇太子様。まだ一度も会ったことがない、その人。

恋を夢見る縁香と違い、私には遠すぎる存在だった。
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