桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
縁香も、私と同じく妃募集で後宮に入ったらしい。

身分は同じ「才人」。

けれど彼女は初めて会ったときから、眩しいほどの自信に満ちていた。

「私ね、皇太子様を見たことがあるの。」

縁香はある日、誇らしげに打ち明けてきた。

「えっ、どこで?」

「街中でよ。御一行を遠くから拝見したの。とても凛々しくて頼もしい方に見えたわ。あの姿を一度見ただけで、私……憧れちゃったの。」

縁香の頬が赤らみ、瞳がきらきらと輝く。

「いつか皇太子様と恋をしてみたいの。私の夢なのよ。」

そう言う姿は、すでに皇太子の妃でありながら、まるで恋に焦がれる乙女そのものだった。

私は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「そう……私は、まだ一度も皇太子様を拝見したことがないから。」

自分でも少し冷めた言い方だと思う。

けれど本当に実感が湧かないのだ。

才人という最下位の身分では、皇太子様に呼ばれることもなく、日々は静かに過ぎていくばかり。

「あーあ。いつになったら、会えるのかしら。」

縁香が窓の外を眺め、夢見るように呟いた。
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