桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そして私は、暇を潰すように簪作りを始めた。

小さな作業机に座り、紙片に花の図案を描いたり、持ってきた細工道具で木の端材を削ったりする。

そんなことしかすることがなかったのだ。

「小桃はまた簪を作ってるの?」

縁香が遊びに来ては、呆れたようにため息をつく。

「だって、他にやることがないのだもの。」

私が笑って返すと、縁香は急に声をひそめて言った。

「じゃあ……皇太子様のお姿、見てみる?」

「えっ?」

彼女に手を引かれ、後宮の庭園の端まで連れて行かれる。

色とりどりの花々に彩られた庭の向こう、遠くに人々が集まる一角があった。

「あそこよ。」

縁香が嬉しそうに指差す。

私の視線の先に、たしかにひとりの男性の姿があった。

遠すぎて、米粒ほどにしか見えない。

「えっ……あの人が?」

思わず声が漏れる。

縁香はうっとりとため息をついた。

「そう、あの方こそ皇太子様よ。凛々しくて素敵でしょう?」

けれど私には、どうしても実感が湧かなかった。

ただ遠い存在を眺めているだけで、心は少しも動かない。

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