桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
夜宴の席。

煌と紅蓮が並んで座る玉座の前では、楽人たちが琴を奏で、舞姫たちが華やかに舞っていた。

杯が交わされ、祝福の声が響き渡る。

私は隅の席に控えていた。煌の視線が時折こちらに流れるのを感じながらも、胸はざわめいていた。

「……柳妃様。」

ふいに、艶やかな声が耳に届く。振り向けば、紅蓮が裳を揺らし、優雅に立っていた。

「煌明様の唯一の寵姫だと、耳にしております。」

にこやかに微笑むその姿に、背筋が強張る。

「ですが――これからは、お立場をわきまえてくださいませ。」

笑みを崩さぬまま、紅蓮の瞳が冷ややかに光った。

「私は皇后。煌明様と並び立つべき存在。……あなたは寵姫として、その役割をお守りください。」

その一言に、胸がぎゅっと締め付けられる。

言い返そうとしても声が出ず、私はただ黙って深く頭を垂れた。

紅蓮は満足げに微笑み、裳を翻すと再び煌のもとへ戻っていった。

(皇后……私は、どうすればいいの……)

煌の隣に座る紅蓮の姿が、涙に滲んで見えた。
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