桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そしてその夜。

祝宴がようやく終わり、煌は人目を忍んで私の部屋に現れた。

「……煌。これから皇后様との初夜だというのに。」

私の声は震えていた。

今宵、煌は正式に皇后と夫婦の契りを結ばなければならない。

その重さを、私は痛いほど分かっていた。

だが、煌は迷わず私を抱きしめた。

「小桃。いつも……俺は君のことだけを想っている。」

その熱に胸が締めつけられる。

叶わぬ願いだと知りながらも、腕を回してその温もりを受け止めた。

「……行ってらっしゃいませ。」

かすれる声でそう告げると、煌はしばらく私を見つめ、やがて静かに頷いた。

彼の背を見送りながら、胸が引き裂かれるように痛む。

(ああ……もう、煌は私だけの人ではないのだ。)

涙を堪えながら寝台に沈み込む。

後宮の灯は華やかに瞬いているのに、私の心はひどく暗く沈んでいた。
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