桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
(お祝いの品を、皇后様に……)

そう思い立ち、父の店に使いを出して仕立てさせたかんざしを手にした。

婚儀のさなかに贈るのが礼にかなう。

――そう雪如に聞かされ、祝宴の後に皇后様を探すことにしたのだ。

「どこにいらっしゃるのかしら……」

広間を外れ、煌の寝所の近くまで歩み寄ったときだった。

「煌明っ……煌明!」

艶やかな声が、夜の帳に響きわたる。

胸がざわつき、思わず戸の隙間から覗いた。

そこには――

絢爛な衣を脱ぎ捨てた紅蓮様が、裸のまま煌の上に覆いかぶさっていた。

白磁のような肌が燭火に照らされ、髪飾りが床に散らばっている。

「皇后様……」

喉が乾き、声が出なかった。

煌は、何も言わずその場に身を横たえている。

紅蓮様の切なげな声だけが、夜を満たしていた。

私はその場に立ち尽くし、胸を引き裂かれるような痛みに襲われた。

(ああ……煌はもう、私だけの人ではない……)
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