桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
二日後。

思いがけず、皇后様が私の部屋を訪ねて来られた。

「お知らせくだされば、私の方から参りましたものを。」

慌てて頭を下げると、皇后様は穏やかに笑った。

「いいのよ。妃たちがどんな暮らしをしているのかを見るのも、皇后の務めのひとつだわ。」

そう言って、用意させた椅子に優雅に腰を下ろされる。

私は胸の鼓動を抑えきれず、そっとその御姿を見つめた。

ふと、紅蓮様の髪に挿された光が目に入る。

「……それは。」

声が震えた。

「ええ、他でもないあなたからの贈り物だもの。」

紅蓮様は、私が差し上げたかんざしを髪に飾っておられた。

「着けて下さっているのですね。」

何とか言葉を絞り出すと、皇后様はにこやかに頷いた。

「ええ。美しい細工ね。……あなたのように、可憐で真っ直ぐ。」

その笑みに胸が痛む。

(あの夜……煌と交わったその人が、今は私のかんざしを身に纏っている。)

まるで、自分の想いが紅蓮様に奪われてしまったようで。

――涙が零れそうになるのを必死に堪えた。
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