カッターナイフ / 一生涯抜くことの出来ないある男の話
 それを聞いて彼女はけっこう笑った。

「それだけ、で大阪からきてくれたん?

うち、普通に見てても目つき悪いて、よう言われるんよ。」

ちょっと真顔に戻りかけながら、でも洋平からはどこか少し嬉しそうにも見えた。

尾道に住む中三の彼女から見れば武庫川といえば大阪、というイメージがあったのであろう。

「うん。でも僕、大阪とちゃうで。

武庫川、て兵庫県なんや。」

「あ、ごめーん。

そやったんや。武庫川て、うち知らんねんけど、どんな町なん。」

「うーん。おんなじ瀬戸内海、でこことは繋がってるんやけど、もうちょっと坂も少ないねん。
普通に家ばっかりなとこやねん。」

洋平は彼女からの質問に助けられた気がした。

普通の友達みたいな感じで話が出来たからである。

「洋平君から見たら尾道、てどんな風に見えるんかな。」

「そやなあ。

景色のええとこ、やと思うわ。

坂多いから歩くん、しんどいけどな。」

彼女も洋平も笑った。

洋平は少しながら彼女に対しての手応え、というのか少しだけ近づくことが出来たと感じた。

「僕、名前、聞いてなったんやけど、何ちゅう名前なんかな。」

「あ、忘れてた。

うち、裕美子言うねん。」

笑いながら答えてくれた。

「ゆみこさん、て言うんや。」

彼女は笑い続けながら

「その、さん、ていうのは何かピンとけえへんわ。

年上やけど、普通にちゃん付けとかで呼んでええで。」

「うんわかった。

ゆみこちゃん、でええね。」

また一歩、近づけた。
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