カッターナイフ / 一生涯抜くことの出来ないある男の話



 尾道は、坂が多いところである。

山から海に向かって急な傾斜になっており、洋平は自分の住んでいる武庫之荘とは違い、移動がかなり辛いことを行って初めて感じた

しかし後にいろんな映画の舞台となるこの場所に、直感的にどこか、自分の中で忘れられない場所になるような雰囲気を感じていた。

従兄は洋平を弟のように感じているのか、また都合の良い子分のように感じているのか、どこに行くにも連れて行った。

洋平とは3歳離れているので、単車の免許も持っており、友人たちとバイクで出かけたりしたが、いつも400ccの自分のバイクの後に洋平を乗せていった。

それは洋平にとっては今まで経験したことのない、楽しい部分ではあった。

また従兄の友人はみな、武庫之荘から来た中学生に優しく接してくれて、いろいろ自分たちがしていることを教えたがった。

タバコ、も勧められたが、その気はなかった。

ただ、バイクには興味があって、ある時尾道に掛かる大きな橋の上で、友人たちの一人の50ccのバイクに乗ってみないか、と言われ、かなり緊張して一人で運転させてもらった。

生まれて初めてなので、アクセルを開けることがとんでもなく恐ろしく、また、排気音がなんともいえない興奮を与えた。

それと、してはいけない年齢であるので、その部分での別の興奮があった。

従兄は空手をしていて、その練習をおもしろ半分、強要してきたが、それはかなり辛い部分であり、まだクラブの練習の方がましだと思った。

そんな日々が4日ほど続いたであろうか、もっと街並みをゆっくり散策出来る、と思っていた洋平は少し自分が勘違いをしていたように感じ始める。

この土地はやっぱり自分が普段生活しているところと何ら変わらないようだ、と。

もう、早く帰って普段の生活をしたくなってきた。

これがホームシックと呼ぶことを洋平はその時は知らなかった。
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