カッターナイフ / 一生涯抜くことの出来ないある男の話
 従兄が言うにはその妹は中学3年で、洋平よりひとつ年上であることがわかった。
 
おとなしい性格らしいが、時折、何を考えているかわからない行動をとるらしい。

以前、自分の兄貴の腕をカッターナイフで刺したこともあると言う。

理由までは従兄は知らなかったが。

洋平は、自分が刺された、そんな感覚に襲われた。

不思議と、痛みがどこかに走ったような錯覚。

だが、刺されても不思議に、悪い気はしなかった。

なぜだか、その時は洋平にはわからかった。

従兄のいつもの友人たちと待ち合わせ場所で合流し、露店で遊んだり、いかせんべいを食べたり、あっという間に時間は過ぎていく。

そろそろ家に戻ろうと従兄が言いだして友人達とは別れ、再びバスで戻ることになった。

洋平はぼんやりと尾道の街並みや灯り、通りゆく人を眺めながら。

そして、男女2人組にはつい目をやってしまっている。

おそらく、先ほどの友人の妹を意識的に探している。

従兄が指摘した「照れ」はその場では否定したが、学校での女生徒には感じたことのない特別な気持ちの「惹かれ」を初めて体験したのかもしれなかった。

家につき、従兄の叔父・伯母に「祭り、どうじゃった?良かったろう」とか他愛のない会話をし、床に着く。

あの少女のことが洋平の眠りをひどく妨げる。カッターで刺された感触は腕ではなく、心の中であった。
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