カッターナイフ / 一生涯抜くことの出来ないある男の話
 武庫之荘に戻るあと一日は、従兄とその友人にまた遊んでもらった。

その中に昨夜、妹を連れていた人はいない。

もう何をしても洋平はうわの空で、頭から少女のことが消えることは無く、終始ぼーっと魂が向けたような状態でいる。

「また遊びにおいでえや。」

「綺麗なお姉ちゃんおったら、一緒にな。」

 笑いながら友人らは話をしてくれる。
 
「妹、しか居てません」と従兄が居ない時に返事すると

「妹、て中一か小学校やな」と、その場は爆笑してくれて。

これが洋平が一番うれしかったリアクションとなったり。

武庫之荘への帰りは叔父・伯母・従兄が尾道駅まで送ってくれて。

初めての一人旅(移動)は地元を離れてほんとによかったな、と感じながら車窓から眺める風景の中、少し眠りについた

夏休みが終わり、中二の二学期が始まる。

もっとだらけて怠惰な日々を送るものだと思っていたが、逆に積極的で活動的になる。

自分でも信じられない変化に驚きはあった。

尾道での出来事、特にあの少女を見て以来。

そして、それは常に脳裏にこびりついている。

その変化はクラスやクラブの友人たちにもわかる程で、

「洋平、何デビューしてん。」

とか冗談交じりでからかわれたりしたが

「いや。カッターでちょっと刺されただけや。」

と、今まで言いそうもない冗談で返答出来る程にまでなっていた。

友人らは驚いていろいろと聞いてはきたが、もちろん具体的なことは一切話さなかった。

夏休みまでの洋平なら、話はここで終わっていただろうが、特にあの少女への想いは大きくなる一方で。

普通なら何も手に付かなくなるところだが、あえて他の事に集中している。

本能的に、むしろ忘れようともがいていたのかもしれない。絶対に無理な話だが。
 
クラブで少し気になっていた女の子とも、普通の会話程度は出来るようになった。

それも尾道でのあの少女のことを思うと変な垣根が取れたと言うか、緊張感は相当にゆるまったのは確かなようである。
< 7 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop