Pandora❄firstlove
後日。
病院側から退院してもいいと、許可が降りた。
原因は体調不良で倒れてしまったことによる、貧血とされた。
まぁ、フラッシュバックに近いのだが、ここは精神科ではないがゆえにそんな事を話したところで意味はないに等しい。
「兄ちゃん、ホンマに大丈夫なんか?」
「海さんがお金出してくれるって言ってるのに……無理しないでよ」
「お前ほど暇じゃないんだよ」
心配そうに覗き込んてきた愛を宥める顔に刺さる朝日は、とても爽やかだ。
「兄ちゃんが、そこまで拒否るんなら仕方ないな。諦めようや、愛ちゃん」
「えー、もっと愛を育みたかったのにー!!」
「馬鹿を言うな」
カツンと軽く、頭を突いてやったら大げさに「あいててて!!」と言い出した。
馬鹿野郎今度その戯言を口にしたら、承知しないからな。
ガラス張りの病院バルコニーを真っすぐ歩いて、出口まで貫く様に進んだ。
右手から大きな人影を捉えて、仰け反ったがもう遅い。
「君、何してくれるんだ!!」
よろけて倒れた人物を、眼で捉えた矢先に顔を覗き込むという状況は、相手方が倒れたのだ。
「ごめんなさい。怪我は?」
咄嗟に溢れた手を、その倒れた銀箔の白衣を纏った「医者」は睨んで振り払った。
「そんな気休めはよせ。君がぶつかってきたくせに」
埃を念入りに払うように、白衣を丁寧に全身はたくと真正面から向き直る。
その顔つきや否や、マストな黒縁メガネをかけておりーー知的雰囲気を全面に纏ったその厳格そうな医者は俺を睨みつける。
「君はーーー確か、特別待遇の」
「特別待遇ーー?」
口から溢れたと言わんばかりに咳払いをして、「あの治安の悪い学校の教師か」と愚痴をこぼされた。
「………あの、いや。我慢ならないな」
さっきから、初対面だが人の気もしれずにーーー敵対してくるその視線や、なおのことまだ体調が悪いのに。
色々と溜まるものがあったゆえに、爆発し「あんたさっきから、態度が悪すぎないか?」と未熟者の俺が出てしまって。
馬鹿野郎、後々面倒くさいことになるに。
反論してしまった俺が馬鹿みたいだ。
嫌われてもいいんだ精神で、脚を出入り口へと進めたたら、いきなり左腕を掴まれて反対方面へ突き戻された。
何なんだよと、苛立ちを隠せずに眼の前を見据える。
一瞬静かに目を見開いた、その医者はすぐに鋭い氷を打ち砕くような、鋭い視点を俺に向けて。
「これ以上、娘に近づくな」
「え?」
「言ってるだろ。あれが最後のチャンスで警告だ。私はあの愛の父親だ」
鋭い眼光の先、心臓を撃ち抜かれてるような気した。
何だか自分のやったことが今頃、不気味に感じれれたのは、これが初めてだ。
「別に…、近寄ろうなんて」
「学校側から、聞いてる。弁論はするな」
資料を拾い上げる医者。
再度紙の塊を、揃えては手元に戻し、また揃えてはまた塊を重ねて手元に戻しーーー。
「楽しそうに娘と、「恋愛お遊びごっこ」は順調か?」
「な………」
「君に言及してあげるとすれば是迄だ。私の愛しい娘に手を出すな。病院長の大人としてーーー娘の不遇な出産は堪忍だ」
「お前はロリコンだろ」と遠回しにいびられたことに、また再度苛立ちを覚えたがーーーさっきの反論で疲れがピークに達していた。
「勝手に、もうそう思いたいならそうしたらどうだ?」
俺は1枚落ちていた、薄ーい紙を拾い上げる。
紙を取るときに、端の角のところを取ったから多少シワが入ってしまった。
「乱雑め………」
医者はすぐさま糸を縫う様に抜き取ると、角と角を合わせて半分に追って手元のバインダーに挟む。
「丁寧な対応をする、貴方なら娘さんはそんな半端な真似はしませんよ」
目障りな奴だったから、二度と話しかけられないよに、こちらも留めの釘を差しておく。
「そう願いたいものだ」
医者はそう捨て台詞を残して、颯爽と去ってゆく。
でも、何故あんなにあの父親はーーー俺と愛の仲をあんなに拒否するのだろうと、常に疑問だ。
だけども考えていた所で、そんなの不可抗力だ。
ただただ、俺は入ってきた道を出るだけ。
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