Pandora❄firstlove
ペンを止めた松山先生。
「それはどうして?」
「俺の初めての初恋は、母さんであったのは間違いなかったから」
「それだけ、お前は愛していたんだな」
「そうだ。なのにーーー母親は俺を裏切り、別の男のところへ転がり込んだ。飽きたという理由で」
「お前は……それに対して、どうしたい?」
「殺してやりたい。俺の貴重な幼少期、あの人に捧げた時間を抹殺してーーーなかったことにしたい」
「そうか………」
松阪先生はしばらく黙ったあと。
「いいかい司。これからもお母さんとの愛を否定する事はしなくてもいい。あった事を否定すると自分が辛くなるだろ?」
首を縦に振る。
「だから、今度から自分の為に時間を使うんだ。やるべきことをしている時に、自分の為に動いて働いてるって考えるんだよ。君は、お母さんに傷付けられて自分の時間を奪われたのも事実だしな」
ーーーお母さんに傷付けられて、自分の時間を奪われたことも事実ーーー。
これまで俺は、精神病院を転々としてきた。
その理由はカウンセリングが全て、合わなかったから。
ーーーそんな事を考えていても、意味はない。前を向くべきだーーー。
ーーーお母さんとの関係を、正当化するべきじゃない。君は傷つけられた被害者なのだから、そんなの相手にしたら駄目だーーー。
ーーー離れたんだから、そんなに深刻に考えることじゃないーーー。
どれも正論であり、俺にとってみれば息が詰まるほど遠い回答だった。
だけどやはり、この松山先生は凄腕のカウンセラーなんだろう。
俺の気持ちを汲み取った上で、答えてくれている男性の先生だ。
渋いヒゲ、ほのかに香るコーヒーの匂い。
恰幅のいい、白衣がとても落ち着く。
「だから、フラッシュバックした時も「これは自分の為に心の中の俺が、自分の出来ることをやれるために忠告してくれている」と。そうフラッシュした時に、思えば軽くなると思う」
西日がてってきた。
明るいせいか、キラキラと埃が舞い先生にオーラーがついたようなそんな感じ。
「あの………っ」
次に言おうとしたら、タイマーが鳴った。