Pandora❄firstlove
アプローチ
あれから3日後。
無事に体育祭が終わったことへの開放感から。
愚痴を彼女に吹き込んで、嫌われてやろうとこっそり電話をかけていた。
だけども不思議と意気投合してしまって、気がつけば人目を縫って愛とご飯を食べていたりして。
「ねぇ、先生ーーー世界って広いって信じる?」
放課後お弁当を食べ忘れたと、俺を裏庭に呼び出し一緒に食事をする仲になっていて。
裏庭にいるのは、ちょうど保健室が目の前にあるからというのもあるが、噂されるのが面倒だから。
そして、コイツがどうしても電話以外で面と向かって話したいと、駄々をこね始めたからで。
哲学をぶち込んできたと思ったら、お茶を吹き出しそうに。
「ちょっと!?!?汚いよ!!!」
「………お前が妙なことを、言うからだろ」
「いたって私は普通なの!!!」
「言葉の意味は?なんでそう思うんだ?」
「なんとなーく。ずっとこんな日々が続くのが嫌だなー。退屈だなーって」
「人生なんて、そんなもんだ」
「もう……、夢がないんだから!!でもね、そんな世界でも広い私の知らない想像を超えた考えや、文化は確かにあるんだよね?」
「そりゃー、あるだろうな。知らんけど」
「なら、それを考えるだけでーーー心が弾んでそんな気持ちも吹き飛んじゃうって思わない?そんなこと無い?」
もう二十何歳にもなって生きるのに必死な俺は、そんな事を考えたこともなかった。
っていうか、こいつはどんだけロマンチストなんだろうか。
「そんな事を思う夢があるんなら、その夢の為に勉強をしたらどうだ」
愛はえへへと笑って、スクールバッグを後ろに隠す。
「隠すな。ガキ臭いぞ」
「そうゆう先生だって、大人臭いよ!!人がせっかく夢のある話をしてるのに、否定から入って!!!」
「大人は否定から入るような夢を、肯定するほど暇じゃないんだよ」
「むー!!!」
頬を膨らまし、卵焼きを食べる愛。
若干焦げているから、手作りなのだろう。
そう言えば噂では、愛の母親は居ないと言っていたっけ。
「でもお前はいいな。夢があって」
「先生には、夢がないの?」
「この年で夢を持てるほど、日本社会は甘くないからな」
「公務員なのに?」
「そう、公務員なのにだ。夢を持つくらいなら、無気力上等だ」
「やっぱり大変なの?先生って」
「大変さ。合わないやつでも、平等に接しないといけないからな」
「私は違うよね?せーんせ!!」
「………お前が一番かもな」
「ひど!?!?」
「お前が変なこと言うからだろ……」
でもなんだかんだ、こうして駄弁ることは居心地がいい。
何だか、取り戻せなかった小さい頃の時間を取り戻しているような気分になる。
それでもだ。
「俺は………やっぱり何のために教師をやっているのか、わからなくなる時があるんだ。二十すぎた大人なのにだ」
「………やっぱり学校に来るの辛いの?」
「正直者が、馬鹿を見るってことがなきにしもあらずだからな」
「先生と生徒の事?」
「先生も、生徒も。スクールカーストってやつが一番理解しやすいかな」
「あぁ……そっか。多感な時期だもんね。同い年の子もなんとなーくそれを感じるかな。生きづらいよね。人間なんて、皆同じなはずなのに」
本当にそうだ。
言いかけた時にいけない、バスが来ちゃうと立ち上がりスクールバスをかっさらう愛。
「じゃあ、先生また明日ね」
「え………おお」
軽々とした足取りで、帰っていく愛。
だけども不思議だ。
ああいうふうに、帰っていくことはできるのに、体のどこかしら悪いんだな………。
仕事があるがゆえに、職員室に戻っていたら。
「司先生ー。お疲れ様ですー。お仕事どうでしたか?」
向かい側から、白衣を着た美人保険教師。
「真理林檎」先生がやってきた。
女子高生達に手を降って、送り出したところへの遭遇。
俺は徹底的に、女子高生達を無視するが林檎先生には挨拶しておかなければ。
「お疲れ様です。林檎先生」
彼女はリンゴと呼ばれているが、全体的にゆるふわな桃色の装飾品をつけている。
桃色のパンプス、インナー、ネックレス。
化粧品であれば、ルージュ、アイライン、チーク。
「昨日、雪座先生とお食事に行ったって本当ですか?」
「えー、知ってたんですか!?!やだー。別にお食事しただけですって!!!」
そうやって、とぼけるふりして皆に遠回しに既婚者男性でありながらも自慢してたところもあり、寄りたくはない。
だが、仕事仲間だ。
挨拶程度は話さなければな。