Pandora❄firstlove
「そう言えば、愛ちゃんと仲いいんですか?よく話してますけど?」
「まぁ……そうですね。意気投合って奴で」
「まぁ、よかった。愛ちゃん寂しがってましたから……。心をひらいてくれてよかった」
まず最初に心を開いて、話せるようにならないといけないのは保険教師であるお前じゃないといけないのでは?と口を噤んで。
「様子どうなんですか?愛の」
「ごめんなさいね。私あの子に嫌われてるみたいで………なんというか、話してくれないのよね。毛嫌いされてるみたい。だから私もあんまり話せなくて」
彼女は、ピーチの香水を首に吹きかける。
なぜ今?
「それに、何だかーーー色目使ってるって噂もある子なんですから、私怖くてーーー話せないっていうか、避けちゃうんですよね」
「色目を使う?」
「女子生徒達が、良く噂してるんです。男を誑かすために、保健室に入り浸って先生の気を引いてるんだって。でも、あの子自分で帰りは歩いて帰れるでしょ?もしかしたらそうなのかなーだなんて」
色目を使うという表現に、なんだか引っかかる。
色目っていうのは、異性に色仕掛けを本人が仕掛けるってことだ。
だが授業中も、ずっと保健室で勉強している彼女。
どうやって、男子と接触して色仕掛けをそもそもかけるんだ?
それにこの先生、いつもつるんでいる生徒達といえば化粧っ気の強いガラの悪い女子生徒たちを引き連れてる。
調子に乗ってる校長をもて遊び、扱いやすくて楽しいと笑っている所を俺は見たことがある輩だ。
そんな女子生徒からの噂しか聞いていないのだとすれば、相当信憑性にかける。
だってその生徒の中には、妊娠退学した女の子もいるぐらい素行が悪いのだから。
不自然なピーチの香水の匂いが、ますます疑いしか湧かなくなるのは当然か。
「ピーチ、好きなんですか?」
「あぁ……これですか?彼氏から貰ったんです」
彼氏ーーーー。
彼氏がいるのに、既婚者男性の雪座先生と食事に行ったのか?
度重なる嫌悪感を流石に見抜かれたのか、林檎先生は笑顔で。
「元カノさんからですよ」
「あ………あぁ」
「彼が忘れられないとかじゃなくて、なんとなーく好きなんです。この香りが」
香水瓶を撫でる手は、何処となく何かを支配するような嫌な空気を感じて。
だけども、俺はきっと母親の事を、懐かしく思っているのかもしれない。
何処となく、愛おしいような気持ちも湧き上がってきて。
なんだか、消えたい気持ちになった。
「司先生は、忘れられない人はいますか?」
「へ?」
「なんとなーく。色んな人を保健室でよく見るから、分かるんです。そんな顔をしてるような気がして」
既に俺に、知られたくない過去があることを見抜かれていた事が怖くなって。
思わず後ずさる。
「別に、おかしいことじゃないですよ。誰だってそんな過去はあります。司先生はちょっと顔に出やすいだけで」
「貴方は……貴方は、何なんだ」
口々に、放っていた言葉。
「人の事を………貴方は、なんだと思ってる」
「人の事………ですか」
ゆっくりと、ほほ笑んだ彼女。
それは魔女のような、歪んだ口元。
ピーチ色したルージュに隠れる。
「別に、何とも。先生が思ってる様なくらい考えじゃないですよ。ただーーー」
「ただ?」
「私を楽しませてくれる、駒ーーーかな………」
「駒扱いーーーですか」
「楽しませてくれる、ですよ?人を操る方じゃない」
「だけど、貴方ーーー駒って」
「人は人間を知ることが娯楽って事があるでしょ?私は、色んな人と出会ってその人生に触れてーーー」
林檎先生は俺の唇を人差し指に触れて。
「知りたいんですよ。その人の心の核に」
「心の核ーーー」
「ずーっと気になるんです。司先生の、貴方の心の核が」
「どうして……、どうして気になるんです?」
「だって、貴方ーーーいや今まで見た中で、見たことのない異性ですから」