その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜

日常の中の幸せ。

「……ねぇ湊くん、そろそろ離れて?」

「やだ」

即答だった。
背後から回された腕の力が、ぐっと強くなる。
ソファの上、洗濯物を畳もうとしていた私の背中に、さっきから湊がぴったりくっついて離れない。

「ほんとに、ずっとくっついてるよね……」

「うん。詩乃さんのこと、好きすぎるから」

低く落ち着いた声で、さらっとそう言う。

職場では絶対に見せない、だらけた声。
髪もシャツもぐしゃぐしゃで、腕だけやたらと器用に私を拘束してくる。
(なんなの、この差……)
数時間前まで、同じオフィスで淡々と仕事をこなしていた彼はどこへやら。


「これ、僕が対応しておきますね」

「深雪さん、あの件確認できてます?」


淡々とした表情で、スマートに立ち回る湊は、いつも少しだけ遠くに見えるのに。
……それが今は、私の背中に頬を押しつけて、

「詩乃さんの匂い、落ち着く……」とか言ってるんだから、やってられない。

「……洗濯物、たたませて」

「じゃあ、俺がやる」

「その状態で? ぴったりくっついたまま?」

「うん。片手空いてるからいける」

「……もう、好きにして」

呆れた声を出したくせに、心の奥はふわふわとあたたかい。

こんな風に彼の体温を感じるたび、胸の奥が満たされていくのを自分でも感じる。
家に帰ってきて、
湊が私だけの“湊くん”に戻る時間が、たまらなく好きだった。

「ねえ詩乃さん、俺と付き合ってくれて本当にありがとう」

「……何急に」

「いや、好きだなって思ったから言いたくなった。詩乃さんのこと、大好き」

耳元で、ため息みたいな声が落ちる。
わかってる。
この人は、本当はこういう人だって。
不器用で、寂しがりで、照れ屋なのにストレートで。
たぶん、私の知らない時間にも何度も「好きだな」って思ってくれてるんだろう。

「……私も、好きだよ」

そう言うと、後ろからふわっと微笑む気配がした。
ああ、この人を好きになってよかった。
こんな時間が、ずっと続けばいいって、今は本気で思える。
誰にも言わないけど、
私だって、湊くんのことが、好きすぎるから。
——-先のことなんて、わからないけれど。
この人と歩んでいく未来が幸せな未来であることを、期待できてることが、
何よりも幸せだなって思えた。
(fin.)
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