その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜

『独占したいけど、できないから』

※本編のアフターストーリーです。





(……なんで、あんなに話してんだよ)



社内の休憩スペース。


コーヒーを取りに来たついでに、ふと目に入った光景に、思わず足を止める。


詩乃さんが、経理課の久保田と笑いながら話していた。


楽しげに、小さく頷きながら相槌を打っている。


それだけのことなのに、胸の奥がざわついた。



「深雪さんってさ、案外癒し系ですよね。うちの部署にも、深雪さんみたいな人ほしいわ〜」
「今度ごはん行きましょうよ。他の女子も誘って」




(お前、何言ってんだよ。)



軽い声が耳に入るたび、苛立ちに似たものがじわじわと広がる。




わかってる。


詩乃さんは、普段は必要最低限しか言葉を交わさないタイプだ。


仕事のミスも冷静に処理して、感情をあまり表に出さない。


けれど一度話し始めると、ふわりと空気がやわらぐ。


その意外性に、彼女のことを気にしているやつが多いのも知ってる。


ああやって、さりげなく笑って、距離を詰められると錯覚させるから──


気づけばみんな、彼女に惹かれていく。


その笑顔が俺だけのもんじゃないって現実に、妙に落ち込んでしまう。



俺だって、大人だ。


独占したいとか、手を引いて隣を歩きたいとか、



そんな気持ちをぐっと飲み込んで、誰より冷静な“同僚”を演じている。



でもたまに、限界が来る。



こうして、詩乃さんが遠くに感じる時がある。



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