不幸を呼ぶ男 Case.3

【深夜・地下のバー】

速水が、バーのドアを開けたのは
約束の、夜21時きっかりだった
店主は、彼を一瞥すると
ただ、静かに頷いただけだった
店主:「……VIPルームにて、お待ちです」
速水を、奥の部屋へと案内する
VIPルームの扉が開き
速水は、その闇の中へと、足を踏み入れた
部屋の、一番奥
ソファに、大きな男が座っていた
顔は、影になって、見えない
だが
その男が放つ、ビリビリとした、重々しい空気は
部屋全体を、支配していた
速水は
その、対面のソファに、腰を下ろした
喉が、カラカラに乾いていた
先に、口を開いたのは
影の中にいる、男だった
滝沢:「……依頼の内容は?」
その声は
感情というものを、一切感じさせない
まるで、機械のような声だった
速水は、意を決して、話し始めた
速水:「ターゲットは、大野勇次郎」
速水:「……殺す、必要はないかもしれん」
速水:「『総裁選を辞退するか、死ぬか』」
速水:「……その、二択を、彼に与えてほしい」
滝沢:「……金は?」
速水は
持ってきた、アタッシュケースを
テーブルの上に置いた
そして、その、蓋を開ける
中には
隙間なく、札束が詰められていた
滝沢:「それは、前金だ」
滝沢:「成功報酬は、これと、同じ額を貰う」
速水:「……わかった」
速水:「明日は、テレビで、討論番組の収録がある」
速水:「決行は、その後で、頼む」
滝沢:「……わかった」
会話は、それだけだった
だが
速水は、もう、限界だった
この、肌が痛くなるほどの、重圧に
これ以上、耐えることはできなかった
彼は
逃げるように、ソファから立ち上がると
足早に、その部屋を、後にした
まるで
本物の、悪魔から
逃げ出すかのように…
< 13 / 40 >

この作品をシェア

pagetop