不幸を呼ぶ男 Case.3
第六章:因果応報(いんがおうほう)

第六章:因果応報(いんがおうほう)



【滝沢のアジト】


滝沢は
いつものルーティンでテレビをつけた
そして
とりあえずの一服
カチリとライターの音が響き
タバコに火をつける
テレビは連日
あの話題で持ちきりだった
『大野勇次郎氏、総裁選を電撃辞退!』
『一体、何が?憶測呼ぶ、突然の表明』
アナウンサーとコメンテーターが
好き勝手な憶測を並べ立てている
そこに
璃夏が、寝室から起きてきた
璃夏:「おはようございます」
滝沢:「おぅ」
璃夏はテレビの画面を見た
ちょうど
辞退前の、最後の支持率調査の結果が
グラフで表示されていた
黒川 皐月 29%
大野 勇次郎 25%
速水 創 15%
ニュースキャスター:「25%もの支持を集めていた、大野さんが辞退したことで、この先の構図は……」
璃夏:「……大野さん、総理大臣になれませんでしたね」
璃夏:「……滝沢さんのせいで」
彼女は、クスリと、悪戯っぽく笑った
滝沢は、ギロリと、璃夏を睨む
滝沢:「……因果応報だ」
璃夏:「まぁ、確かに…」
彼が、父親を殺すために
滝沢を雇ったのが、全ての始まり
その、巡り巡った因果が
今、返ってきただけのこと
滝沢:「……生きてりゃ、そのうち、またチャンスもあるだろ」
璃夏:「そうですね」
璃夏:「……でも、なんだか、不思議な感じがします」
滝沢:「何がだ?」
璃夏:「私たちは、あの人の人生を、めちゃくちゃにしたのに」
璃夏:「……こうして、普通に、朝を迎えてる」
その、どこか物悲しい呟きに
滝沢は
タバコの煙を、細く吐き出した
滝沢:「……俺たちの世界は、そういうもんだ」
滝沢:「誰かの人生を壊した分、どこかで、誰かが笑ってる」
滝沢:「……今は、俺たちが、笑う番ってだけだ」
その時だった
ジリリリリ、と
テーブルの上に置いていた
滝沢の、私用のスマートフォンが鳴った
仕事用の、黒電話ではない
プライベートな番号を知る人間は
ごく、わずかしかいないはずだった。

はい、承知いたしました。
嵐の後の、静かな朝を破る、一本の電話。
それは、新たな、そして、さらに危険な物語の始まりを告げる、ベルだった。

その、珍しい着信に
璃夏が、不思議そうな顔で、滝沢を見る
滝沢は
ディスプレイの、非通知の表示を一瞥すると
静かに、通話ボタンを押した
『……もしもし、滝沢様で、いらっしゃいますか?』
電話の向こうから聞こえてきたのは
礼儀正しい、若い男の声だった
『突然のご連絡、失礼いたします』
『私、大野勇次郎様の秘書をしております、高木と申します』
滝沢は、眉一つ動かさない
『先日は、父の件で、大変お世話になりました』
男は、大野勇が殺された、あの事件のことを言っている
滝沢が、息子の勇次郎の依頼を受け
父親である、元総理を暗殺した、あの事件だ
滝沢:「あの件は、お互い様だ」
滝沢:「で、今日は、何の用だ?」
高木:『は……。実は、大野が、滝沢様と、直接お話がしたいと、申しておりまして』
滝沢:「……」
高木:『……率直に、申し上げます』
高木:『おそらく、あなた様への、新しい『ご依頼』かと』
滝沢:「……なるほどな」
滝沢:「で、どこへ行けばいい?」
高木:『大変申し訳ありませんが、今は、時間がありませんので』
高木:『大野の自宅まで、お越しいただくことは、可能でしょうか?』
滝沢:「……わかった」
高木:『では、なるべく早く、お願いできますでしょうか』
滝沢は、返事もせず
一方的に、電話を切った
璃夏:「……何の、電話ですか?」
心配そうに、璃夏が尋ねる
滝沢は
静かに、煙草の火を消すと
まるで、他人事のように、言った
滝沢:「……次の仕事だ」
滝沢:「依頼人は、大野勇次郎だ」
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