不幸を呼ぶ男 Case.3
第七章:警告と代償
第七章:警告と代償



【黒川邸】

風間は
影だった
黒川邸という、完璧なはずの城に
いつの間にか、忍び込んでいた
ただの、影だった
邸内にいる、黒川をはじめ
秘書も、使用人も
誰一人として、その存在に気づかない
黒川は、この二日間
自宅に、引きこもっていた
仕事と、勉強
それが、一番、安全だと信じていた
だが、その、全ての行動は
影の中から、風間に、監視されていた
風間:(……辞任の、意思なし)

黒川は、夜食を済ませると
書斎へと戻るため、階段を登った
風間は
その書斎の中
扉のすぐ横の壁に、張り付いていた
その顔には、黒い、忍の手ぬぐいが巻かれている
黒川が、書斎の扉を開け、中へ入る
そして、デスクへ向かおうとした
その、瞬間
風間は
音もなく、黒川の背後を取った
彼女の左腕を、後ろ手に捻り上げ
その上半身を、デスクの上に、叩きつけるように押し付けた
黒川は、身動きが取れない
風間:「……警告は、したはずだ」
その声は
機械を通したような、無機質な声だった
ボイスチェンジャーだ
黒川は、顔も見えない、声も変えられている
絶対的な、絶望
だが、彼女は、女帝だった
黒川:「……あなたが、噂の、忍者ハットリくん、かしら?」
その、挑発
風間は、黒川の左腕を
さらに、きつく、締め上げた
黒川は、くぐもった、悲鳴のような声を上げた
風間:「……死にたいようだな」
黒川:「私が、何の対策も、していないと、思うの?」
彼女は、苦痛に耐えながら、言った
そして、ゆっくりと、自由な右手を
上着のポケットへと、滑り込ませていく
風間:「対策など、意味はない」
風間:「……我々は、証拠を残さない」
黒川:「証拠が、出なくても…」
黒川:「私が死ねば、速水議員が、疑われるように、対策はしたわ」
黒川の指が
ポケットの中の、何かに、触れた
風間:「……」
黒川:「なぜ……こんなことまでして、あなたは、速水を…」
その問いに
風間は、答えなかった
ただ、事実だけで、答えた
ゴキリ、と
生々しい音がして
彼は、黒川の後ろ手にしていた左腕を
容赦なく、へし折った
その、激痛が走った瞬間
黒川は、ポケットの中の物の
紐を、引き抜いた!
けたたましい、電子音が
屋敷全体に、鳴り響く
警報だ
風間:「……チッ!」
階下から
秘書や、使用人たちが
階段を、駆け上がってくる音がする
風間は、書斎の窓を開け
そこから、屋根に飛び乗った
そして、屋根の頂点から
夜の闇へと、飛んだ
ムササビのように、マントを広げ
彼は、風に乗る
そして、夜の漆黒に紛れ
完全に見えなくなった。
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