不幸を呼ぶ男 Case.3

【黒川邸・書斎】

けたたましい警報音が
屋敷全体に鳴り響く
風間が消えた窓から
冷たい夜風が吹き込んでいた
バタバタと
荒々しい足音が近づいてくる
そして
書斎のドアが、勢いよく開かれた
秘書:「先生!ご無事ですか!」
なだれ込んできた秘書たちは
目の前の光景に、絶句した
主である黒川皐月が
デスクの上で、ぐったりとしている
その、ありえない角度に曲がった、左腕
そして
デスクに突き立てられた、一本のナイフ
秘書の一人が、使用人に叫んだ
秘書:「警察と、救急車を!」
黒川は
左腕の、骨が砕ける激痛に耐えながら
荒い息を、繰り返していた
だが
その瞳の光は
一切、失われてはいなかった
秘書:「先生!今、救急車を!」
黒川:「……静かに」
その、か細いが
しかし、絶対的な威厳に満ちた一言で
その場の、全ての人間が、動きを止めた
黒川は
ゆっくりと、体を起こす
そして
秘書に、命じた
黒川:「……明日の、朝一番で」
黒川:「緊急記者会見を開きます」
黒川:「……手配、なさい」
秘書:「は、はい!」
やがて
救急車のサイレンが
豪邸の前に、鳴り響いた
黒川は
秘書に付き添われ
ストレッチャーに乗せられていく
その、最後の瞬間まで
彼女は、決して、気高さを失わなかった
救急車が去り
先着した制服警官たちが
黒川邸の周りを、完全に封鎖した
その、黄色いテープが張り巡らされた、物々しい雰囲気の中
一台の、黒い覆面パトカーが、静かに到着した
車から降りてきたのは
警視庁捜査一課の、石松だった
彼は、鑑識の腕章をつけた部下たちを引き連れている
石松は
ライトに照らし出された、黒い豪邸を
そして、二階の、ガラスが割れた書斎の窓を
鋭い目で、見上げた
石松:「……始まるぞ」
石松:「あの、女帝への、挑戦状を送った、馬鹿なネズミ狩りがな」
彼は、白い手袋をはめると
部下たちに、短く、命じた
石松:「……徹底的に、調べ上げろ」
< 19 / 40 >

この作品をシェア

pagetop