不幸を呼ぶ男 Case.3
【黒川邸】
数時間が、経過した
黒川邸は、警察と鑑識の、巨大な実験室と化していた
鑑識たちが
あらゆる科学技術を駆使し
目に見えない、犯人の痕跡を探していた
指紋
足跡
髪の毛一本
セキュリティシステムの、ハッキングの痕跡
監視カメラの、わずかな映像の乱れ
だが
何も、出なかった
犯人は、まるで、本物の幽霊のように
何一つ、痕跡を残していなかったのだ
石松は
屋敷に残った、秘書や使用人たちに
聞き込みを続けた
だが、誰もが、警報が鳴るまで
何も、見ていないし、聞いていないと、首を横に振るだけだった
深夜
石松は、一人、屋敷の外で
雨上がりの、アスファルトの匂いを吸い込みながら
タバコを、ふかしていた
石松:(……ファントムの、仕業か…?)
裏社会の、伝説の殺し屋
彼なら、これくらい、完璧な潜入も可能だろう
石松:(……いや、違うな)
彼は、即座に、その仮説を否定した
石松:(ファントムなら、黒川皐月は、もう死んでいる)
石松:(あの男は、警告などしない。ただ、静かに、殺すだけだ)
では、誰だ?
ファントム以外に
東京に、こんな真似ができる人間が
他に、いるというのか?
石松:「……クソっ!」
彼は、吸いかけのタバコを
地面に叩きつけた
その時
一人の、若い刑事が
彼の元へ、駆け寄ってきた
刑事:「石松さん!」
刑事:「鑑識からの報告です!」
刑事:「現場からは、何も出ませんでした」
刑事:「……残るは、被害者である、黒川皐月本人の服に付着した」
刑事:「犯人のものと思われる、DNA鑑定くらいしか、ありません」
石松は
ゆっくりと、顔を上げた
石松:「……そうか」
石松:「じゃあ、病院に行くぞ」
石松:「……あの、女帝本人に、話を聞きに、な」
彼は
新しいタバコに、火をつけると
まだ、混沌の渦中にある、黒い豪邸を
鋭い目で、一瞥した
そして
部下たちを引き連れ
次の、戦場へと、向かっていった。