不幸を呼ぶ男 Case.3

【滝沢のアジト】


滝沢は
いつものルーティンをこなしていた
テレビをつけ
とりあえずの一服
カチリと、ライターの音が響き
タバコに、火をつける
画面の中では
いつものように、女性アナウンサーが
当たり障りのないニュースを、読み上げていた
その声は
滝沢の耳には、ほとんど入っていない
だが
一つの単語が
彼の、意識に、引っかかった
アナウンサー:『―――本日この後、総裁選で、次期総理大臣に最も近いと言われている、黒川皐月議員の、緊急記者会見が行われる模様です』
滝沢は
一瞬だけ、テレビの方に、目をやった
そこへ
寝室から、璃夏が起きてくる
璃夏:「おはようございます」
滝沢:「おぅ」
璃夏は
テレビの前に、ちょこんと座り
コーヒーを、一口飲んだ
滝沢は
タバコの煙を、細く吐き出しながら
ぽつりと、呟いた
滝沢:「……なんだか、雲行きが怪しくなってきたな」
璃夏:「え?今日、雨ですか?」
滝沢は
心底、呆れたように
深いため息を、ついた
璃夏:「え?」
滝沢:「……黒川皐月が、緊急記者会見をするらしい」
璃夏:「え!?」
璃夏:「じゃあ、黒川さんも、総裁選を、辞退するんでしょうか?」
滝沢:「……かもな」
璃夏:「だとしたら、私たちが、速水を暗殺する意味が……」
璃夏:「早く、依頼を、実行しないと!」
滝沢:「夜まで、待て」
滝沢:「……今は、動く時じゃない」
彼は、そう言うと
話を変えるように、璃夏に尋ねた
滝沢:「……お前、銃の手入れは、済んだのか?」
璃夏:「いえ……」
璃夏:「今晩の、予定でしたから、まだいいかな、と…」
その、少しだけ気の抜けた返事
滝沢が、何かを言おうとした
その時だった
テレビの画面が
切り替わった
民政党本部の、会見場の、映像
無数の、記者たちが、ざわめいている
全ての始まりとなる
運命の、記者会見が
今、始まろうとしていた。

そして
その中央に立つ、黒川皐月
彼女の、腕には、痛々しいギプスが巻かれている
やがて
彼女は、マイクの前に立ち
静かに、話し始めた
大野勇次郎と、自分に、脅迫があったことを
そして
犯人の名前を、告げようとした
その、瞬間
プツン
テレビの画面が、真っ暗になった
そして、会場の、悲鳴と怒号だけが
スピーカーから、響き渡る
璃夏:「……何が、起きたんですか!?」
滝沢は、黙って、画面を見つめている
やがて
非常電源が、作動し
映像が、再び、映し出された
そこに、広がっていたのは
地獄のような、光景だった
ステージの上で
大野勇次郎が、血の海の中に、倒れている
その、あまりに衝撃的な映像に
璃夏は、声も出せずに、固まった
ただ、両手で、口を覆うことしかできない
滝沢は
その、地獄絵図を
まるで、他人事のように
一切の、感情なく、眺めていた
そして
心底、面倒くさそうに
ぽつりと、呟いた
滝沢:「……これは、マズいな」
滝沢:「残りの報酬が、貰えなくなる」
その、あまりに、非人間的な言葉に
璃夏は、我に返った
璃夏:「……そんなこと、言ってる場合ですか!」
璃夏:「大野さんが……!大野さんが、死んじゃうかもしれないんですよ!」
璃夏は
滝沢の胸ぐらを掴まんばかりの勢いで、叫んだ
だが
滝沢は、そんな彼女を一瞥すると
また、テレビの画面に、視線を戻した
その瞳には
何の、感情も、浮かんでいなかった。

< 28 / 40 >

この作品をシェア

pagetop