不幸を呼ぶ男 Case.3

【深夜・都内高層ビル】

屋上から
二つの影が、静かに降りていく
璃夏は、非常階段の踊り場で
ノートパソコンを、再び開いた
そして、数秒のタイピング
ビルの、全ての監視カメラを
正常な状態へと、戻した
完璧な、仕事だった
車は、静かに走り出す
だが、滝沢が指示した方向は
アジトではなかった
滝沢:「……あの、ペントハウスの駐車場に行け」
璃夏:「えっ?」
璃夏:「大丈夫なんですか?今、行って」
滝沢:「……急げば、問題ない」
璃夏は、何も言わず
ハンドルを切った

【速水創のペントハウス・地下駐車場】

高級外車が、ずらりと並ぶ
静まり返った、地下駐車場
璃夏は、車中で待機する
滝沢は、一人、車から降りると
闇に、溶け込んだ
そして
速水創の、愛車である、黒いベントレーを見つけ出す
彼は、その車の、底に潜り込むと
指先ほどの大きさの、黒い物体を
車体の裏側に、貼り付けた
磁石式の、GPS発信機だ
滝沢は、車に戻ると
璃夏に、車を出すよう、静かに命じた
璃夏:「……今、何を?」
滝沢:「……サービスだ」
璃夏:「……なんの、ですか?」
滝沢は
後部座席で、深く、体を預けた
そして
どこか、面白そうに
しかし、少しだけ、不機嫌そうに、言った
滝沢:「……俺の、シゴトを、お前が取ったからな」
滝沢:「……だから、大野への、サービスだ」
滝沢:「あの男が、死んだ後、どうなるのか」
滝沢:「最後まで、見届けてやる、ってな」
その言葉の、本当の意味を
璃夏は、まだ、理解できていなかった
だが
滝沢の、その横顔には
彼だけの、彼にしか分からない
奇妙で、そして、絶対的な
「仁義」の、ようなものが、宿っているように見えた。

【速水創のペントハウス】

風間は
ゆっくりと、立ち上がった
そして
呟いた
全ての、憎悪を込めて
風間:「……黒川皐月…」
彼は
忍びの、黒い装束を、完璧に身に纏うと
主の亡骸に、深々と一礼した
風間:「……黒川皐月!」
彼は
窓から、夜の闇へと、飛び出した
最後の、復讐を、果たすために

【都内・東京救命救急センター】

黒川皐月は
一人の、伝説の男と、向き合っていた
ゴッドハンド、神崎医師
神崎:「……あとは、彼自身の、生命力次第です」
大野勇次郎は
まだ、意識が戻らない
だが、命の危機は、脱したという
黒川:「……そうですか」
神崎:「彼を、突き動かしているのは、一体何ですかな」
神崎:「あれほどの毒に侵されながら、生きようとするとは」
神崎:「……常人ではない」
黒川:「……さあ」
黒川:「彼が、この国の、未来に必要な男だということだけは」
黒川:「確かですわ」
黒川は
神崎に、深々と頭を下げると
病院を、後にした
そして
待たせていた、車に乗り込む
彼女の、本当の戦場へと、戻るために

【滝沢の車内】

滝沢は
スマートフォンの画面を
ただ、じっと、見つめていた
画面には、都内の地図が表示されている
そして
その上を、一つの、赤い点が
ゆっくりと、動いていた
速水の車に、彼が仕掛けた、GPSだ
滝沢:「……動いたな」
彼は、運転席の璃夏に
そのスマートフォンを、見せた
滝沢:「……この、赤い点が行くところへ、行け」
璃夏:「……分かりました」
璃夏は
何も、聞かなかった
ただ、頷くと
車を、急発進させた
滝沢たちの車は
急なUターンをすると
夜の闇の中を、滑るように
その、赤い点を、追い始めた
最後の、狩りが
今、静かに、始まった。

< 33 / 40 >

この作品をシェア

pagetop