不幸を呼ぶ男 Case.3
【深夜・都内】
黒川皐月を乗せた車が
静かに、夜の道を進んでいた
その、すぐ後ろ
一台の、黒いベントレーが
亡霊のように、ぴったりと張り付いている
しばらく、その追走は続いた
やがて
黒川の車が、大きな川の、河川敷の道へと入る
その、瞬間だった
ベントレーが、猛然と加速した
黒川の車の、真横につける
そして
思い切り、ハンドルを右に切り
黒川の車に、激しく、体当たりした
凄まじい衝撃音と、金属音
二台の車は、道から弾き飛ばされ
河川敷の、広場へと、突っ込んでいく
黒川の運転手は
衝撃で、気を失っていた
黒川は、なんとか、ドアを開け
外へと這い出す
そこには
ベントレーから降りてきた
一人の男が、立っていた
風間だった
黒川は、走り出した
だが、すぐに、追いつかれる
河川敷の、巨大な橋の下
彼女は、風間に捕まり
冷たい、橋桁に、体を押し付けられた
黒川:「やめなさい!」
風間:「黙れ!」
その声に、ボイスチェンジャーは、かかっていなかった
黒川は、不思議に思った
風間:「お前の、望み通り、速水様は、死んだ…」
黒川:「な……なんですって!?」
風間:「しらばっくれるな!お前の、仕業だろうが!」
黒川:「……何で、私が、そんなことをする必要があるの」
その、心底、理解できないという、黒川の言葉に
風間の、何かが、キレた
彼は、堰を切ったように、語り始めた
自らの、あまりに、悲しい人生を
彼は、最後の忍びとして、生まれた
だが、その技は、現代では、無用の長物だった
彼は、一度、全てを捨て、普通の人間として生きた
愛する妻と、息子
それだけの、小さな幸せ
それが、彼の全てだった
だが
息子は、重い心臓の病に、侵された
海外で、移植手術をすれば、助かるかもしれなかった
だが、その費用、3000万円
彼には、どうすることも、できなかった
息子は、死んだ
そして、妻も、彼の元から去った
全てを失い
生きる意味さえ、失った
そんな、彼の前に
一人の男が、現れた
速水創だった
彼は、神だった
腐ったこの国を、作り変え
自分のような、弱者を救ってくれる
唯一の、希望だった
だから、風間は、彼に、全てを捧げた
自分の、命さえも
風間:「……俺たちは」
風間:「俺たちが、思い描く、新しい日本を作るために」
風間:「ここまで、来たんだ…!」
風間は
黒川の首を、締め上げた
風間:「……それを、お前が!」
風間:「……お前のような、旧世界の、亡霊が!」
その瞳には
純粋な、そして、狂信的な
憎悪の炎だけが
赤く、燃え盛っていた。