不幸を呼ぶ男 Case.3

【深夜・河川敷】

璃夏と黒川は
少し離れた、安全な場所から
その、ありえない戦いを、見つめていた
璃夏:「大丈夫ですか?お怪我は」
黒川:「……だ、大丈夫…」
黒川は
震える手で、上着のポケットから
スマートフォンを取り出した
黒川:「……警察を、呼ぶわ」
だが
璃夏が、その手を、優しく制した
璃夏:「……少し、待ってください」
璃夏:「今、警察が来ても、あの男に殺されるだけです」
璃夏:「……あの人に、任せてくれませんか?」
黒川:「……あの人は、一体、誰なの?」
璃夏は
遠くで、戦う男の、大きな背中を見つめた
そして
ほんの少しだけ、誇らしそうに、微笑んだ
璃夏:「……伝説の……ヒーロー、ですかね?」
【滝沢 vs 風間】
戦いは、膠着していた
スピードでは、風間
パワーでは、滝沢
互角の、攻防が続く
やがて
風間が、すっと、距離を取った
彼は、両手に持ったクナイの、リングの部分に指を入れ
それを、玩具のように、くるくると回す
そして、パシッと音を立てて、ナイフのように握り直した
遊びは、終わりだ
風間:「なぜ、上着の中にある、銃を使わない?」
滝沢:「……お前も、本気を出してねぇだろ」
風間は、地を蹴った
クナイが、月明かりを反射し、煌めく
だが、その切っ先が、滝沢に届く前に
彼の手首は、滝沢の、鋼のような手に掴まれていた
そして、強烈な、足払い
風間は、体勢を崩しながらも
逆の手に持ったクナイで、滝沢の懐を狙う
滝沢が、後ろに飛んで、それをかわす
風間:「……ちなみに、銃は効かん」
彼は、上着をめくり
その中に着込んだものを、見せた
黒く、鈍い光を放つ、鎖かたびら
風間:「……銃弾は、通さん」
風間:「狙うなら、頭しかないぞ」
滝沢:「……じゃあ」
滝沢:「試してみるか?」
風間は
両手にクナイを構え
再び、滝沢へと、襲いかかった
それは
もはや、舞いのようだった
風間の、クナイが、無数の残像を描き
滝沢の、全身の急所を、狙う
滝沢は
その、死の嵐の中を
最小限の動きだけで、かわし続ける
まるで
未来が、見えているかのように
二人の、超人の戦いは
常人には、もはや
目で、追うことさえ、できなかった。
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