捨てられ仮面令嬢の純真

 ずっと前からセレスに恋していたレオの気持ちを見抜き、自由の身になったセレスの嫁ぎ先としてレオをねじ込んだのだと聞かされた時には唖然としたものだ。それがあったからこそ、今のセレスは幸せなのだけど。

「お義兄さまとレオさまは本当に仲のいい兄弟ですわね」
「もちろん。だってあいつ、可愛いじゃないか」

 マティアスは満面の笑みで言い切る。レオを「可愛い」と言われても、セレスは困ってしまった。

「――そうだ、ひとつ秘密を教えようかな」
「なんでしょう」
「あいつ小さい頃は、私のことを『にいたま』って呼んでたんだ」

 真面目くさって暴露され、セレスはたまらず笑い出す。が、マティアスは残念そうに首を振った。

「いつの間にか『兄さん』とか低い声で言うようになってがっかりしたよ。まあ頼れる男に育ったからいいんだが……」
「もう! 仲良すぎですわ」

 くすくす笑うセレスにマティアスは優しい目をした。

「レオは絶対無事に戻ってくる。心配かけてすまないが、もう少し我慢してほしい」

 セレスは一瞬黙ってから――泣きそうになった。夫の不在に気を張っているセレスを案じ、マティアスは慈善事業に付き合ってくれたのだろう。そっと頭を下げて感謝を示す。

 だがセレスは知らない。
 この出陣そのものが、マティアスが絡んだ謀略だということを。
 そして民への炊き出しを企画したのは男爵夫人セレスティーヌだ、とマティアスが大々的に宣伝していることも、まったく知らなかったのだ。



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