捨てられ仮面令嬢の純真

 相変わらず王都では食料不足気味の日々が続いていて、貧しい者の中には冬の寒さで倒れる人々もいるという。そのため温かい煮込みとパンを配ることにしたのだ。ボロを着込んだ人々が自前のお椀を手に列を作っている。
 この慈善活動、資材の調達や調理に関しての協力・協賛はマティアスが買って出ていた。政務に忙しいはずの義兄なのに、当日は本人も足を運ぶ熱の入れようでセレスは恐縮することしきり。

 それにしてもレオは、妻を愛称で呼ぶようになったきっかけのことまで兄に話しているのだろうか。

「パン屋のおかみさん、とっても明るい人なんです。でもレオさまったら、お義兄さまになんでも話すんですのね」
「知らないのかい? あいつは妻の自慢ばかりするんだ」

 セレスはますます真っ赤になってしまう。そして思い出した。この義兄が自分たち夫婦の恩人なのだと
 ずっと前からセレスに恋していたレオの気持ちを見抜き、自由の身になったセレスの嫁ぎ先としてレオをねじ込んだのだと聞かされた時には唖然としたものだ。それがあったからこそ、今のセレスは幸せなのだけど。

「お義兄さまとレオさまは本当に仲が良くて」
「もちろん。だってあいつ、可愛いじゃないか」

 マティアスは満面の笑みで言い切った。頼もしいレオを「可愛い」と言われてもセレスは困ってしまうが。

「――そうだ、レオの秘密をひとつ教えようかな」
「まあ、なんでしょう」
「あいつ小さい頃――私のことを『にいたま』って呼んでたんだ」

 真面目くさって暴露され、セレスはたまらず笑い出す。が、マティアスは残念そうに首を振った。

「舌っ足らずに私の後を追いかけてきてね。いつの間にか『兄さん』とか低い声で言うようになって、がっかりしたよ。まあ頼れる男に育ったからいいんだが……」
「もう! 仲良すぎですわ」

 くすくす笑うセレスにマティアスは優しい目をした。

「レオは絶対無事に戻ってくる。心配かけてすまないが、もう少し我慢してほしい」

 セレスは一瞬黙ってから――泣きそうになった。
 
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