捨てられ仮面令嬢の純真
夫の不在に気を張っているセレスを案じ、マティアスは慈善事業に付き合ってくれたのだろう。そっと頭を下げて感謝を示す。
「私は……だいじょうぶです。こうしてお義兄さまも気にかけて下さいますし。町に出るようになって、いろいろな方と仲良くなれました」
「『セレスちゃん』だしな」
マティアスが目を細めて笑った時、炊き出しの列の向こうで悲鳴が上がった。女の子の声だ。そして何かがひっくり返るガシャンという音。
「返してっ……!」
泣き声が響く。そして大人の怒声。
「捕まえろ!」
「くそガキめ!」
セレスは思わず走り出した。何ごとだろう。
人々の向こう側にいたのは転んで泣いている七、八歳ほどの女の子だった。目の前に小鍋が落ちていて、配られた煮込みがこぼれている。
そして路地から引きずられてきたのは――もっと幼い男の子だった。五歳になっていないかもしれない。ブカブカの大人の服を無理やり着て、パンが入った袋を抱えていた。大人にぶら下げられるように引き出されたその子はやせ細り、瞳は虚ろだ。
「何が……?」
青ざめて尋ねたセレスに、居合わせた者が口々に教えた。
「転んでる嬢ちゃんは親が病気なんだ。炊き出しを持って帰ってやろうとしたのさ」
「そしたらそっちのガキが、パンをかっぱらって逃げやがった」
「え……!」
どうして。
列に並んでくれれば誰にでも分け与えるつもりのパンを、盗む子どもがいるなんて。
「こいつは浮浪児だよ。家も親もない」
「タダでもらえるって知らなかったんだろ」
聞こえた言葉にセレスは絶句した。
(そんなことすら教えてもらえずに――?)
地面に押さえつけられた男の子は泣きもしない。涙も笑顔も無くしたような表情がセレスの心をえぐった。
この子は親が死んでしまったか捨てられたかで独り路上に暮らしているのだろう。孤児院の存在も知らなくて、拾い食いや盗みで命をつないでいるのだ。
セレスは男の子のそばに膝をついた。
「私は……だいじょうぶです。こうしてお義兄さまも気にかけて下さいますし。町に出るようになって、いろいろな方と仲良くなれました」
「『セレスちゃん』だしな」
マティアスが目を細めて笑った時、炊き出しの列の向こうで悲鳴が上がった。女の子の声だ。そして何かがひっくり返るガシャンという音。
「返してっ……!」
泣き声が響く。そして大人の怒声。
「捕まえろ!」
「くそガキめ!」
セレスは思わず走り出した。何ごとだろう。
人々の向こう側にいたのは転んで泣いている七、八歳ほどの女の子だった。目の前に小鍋が落ちていて、配られた煮込みがこぼれている。
そして路地から引きずられてきたのは――もっと幼い男の子だった。五歳になっていないかもしれない。ブカブカの大人の服を無理やり着て、パンが入った袋を抱えていた。大人にぶら下げられるように引き出されたその子はやせ細り、瞳は虚ろだ。
「何が……?」
青ざめて尋ねたセレスに、居合わせた者が口々に教えた。
「転んでる嬢ちゃんは親が病気なんだ。炊き出しを持って帰ってやろうとしたのさ」
「そしたらそっちのガキが、パンをかっぱらって逃げやがった」
「え……!」
どうして。
列に並んでくれれば誰にでも分け与えるつもりのパンを、盗む子どもがいるなんて。
「こいつは浮浪児だよ。家も親もない」
「タダでもらえるって知らなかったんだろ」
聞こえた言葉にセレスは絶句した。
(そんなことすら教えてもらえずに――?)
地面に押さえつけられた男の子は泣きもしない。涙も笑顔も無くしたような表情がセレスの心をえぐった。
この子は親が死んでしまったか捨てられたかで独り路上に暮らしているのだろう。孤児院の存在も知らなくて、拾い食いや盗みで命をつないでいるのだ。
セレスは男の子のそばに膝をついた。