捨てられ仮面令嬢の純真
「――ごめんなさい、これまであなたを守ってあげられなくて」
そっと伸ばした手で、やせこけた頬を包む。ビクッとした男の子は初めてこちらを見上げた。セレスは泣きそうなのを我慢し微笑みかける。
「もうだいじょうぶよ、みんなと一緒にご飯を食べましょう――この子を放してやってくださいな」
「いや、でも男爵夫人……」
「お腹がすいているだけよね。ここのご飯はあなたも食べていいって知らなかったのでしょう? みんなで分けっこしていただこうと思って用意したの。そうだわ、ご飯の後で、お布団のあるおうちに連れていってあげる。どう?」
やさしい声に、男の子は目を見開いた。驚いたようにキョロキョロし始める。
おずおずと体を起こした男の子の汚れた髪を、セレスはためらわずになでた。
「……母ちゃん」
小さくこぼれた言葉は、男の子の孤独の証。
伝わる寂しさがたまらなくて、セレスはつい抱きしめる。男の子は抵抗しなかった。
「――よーし、ここにいる皆が証人だ。この子は孤児院で養われることになった!」
明るく宣言したのはマティアスだ。広場の耳目が集めたところでニコリとする。
「ラヴォー男爵夫人は弱い者を捨て置かない。いつも町の皆のことを思っているんだ。『騎士団のレオ』ともども頼りにしてほしい!」
ドッと広場が沸いた。どうなることか固唾をのんでいた人々が手を叩いて喜ぶ。
「おう、よろしく頼むぜ!」
「いいぞいいぞッ!」
「こらガキ、もうかっぱらいなんかするなよ。こっち来て飯を食え!」
男の子に大人たちからお椀が押しつけられる。女の子も助け起こされ、新しい煮込みをよそってもらい帰っていった。
セレスは人々が働くのを見つめた。
自分はまだ知らないことが多すぎる。王宮で学ぶだけでは何もかも足りなかった。
後悔をかみしめている横に来たのはマティアスだ。
「いやいや、さすがだったな」
それは騒ぎを丸くおさめた手腕のこと。セレスが無自覚にやっているのはわかるが、今日の件でレオ夫妻の評判はますます良くなるだろう。マティアスにとってはありがたい流れだ。
「いえ……私にできるのは、ささやかな事だけですから」
「そんなことはない。この炊き出しも、あの男の子が救われるだろうことも、すべて君がきっかけだ。一人で為せることは少ない。でも一人がやろうとすれば、ついてくる人もいるものさ」
「そうでしょうか」
「ああ。私はよく知ってるんだ、何しろ――」
マティアスはフフ、と笑う。
「ちょっとばかり国政にたずさわっているのでね」
「まあ! ふふ、今日は宰相補佐官さまにお手伝いしていただいて申し訳なかったです」
軽口で返したセレスの表情は明るくなる。
――いつも前を向いていこうと思えた。だって、独りではないから。
愛するレオも今、国境で奮闘しているはずだ。
そっと伸ばした手で、やせこけた頬を包む。ビクッとした男の子は初めてこちらを見上げた。セレスは泣きそうなのを我慢し微笑みかける。
「もうだいじょうぶよ、みんなと一緒にご飯を食べましょう――この子を放してやってくださいな」
「いや、でも男爵夫人……」
「お腹がすいているだけよね。ここのご飯はあなたも食べていいって知らなかったのでしょう? みんなで分けっこしていただこうと思って用意したの。そうだわ、ご飯の後で、お布団のあるおうちに連れていってあげる。どう?」
やさしい声に、男の子は目を見開いた。驚いたようにキョロキョロし始める。
おずおずと体を起こした男の子の汚れた髪を、セレスはためらわずになでた。
「……母ちゃん」
小さくこぼれた言葉は、男の子の孤独の証。
伝わる寂しさがたまらなくて、セレスはつい抱きしめる。男の子は抵抗しなかった。
「――よーし、ここにいる皆が証人だ。この子は孤児院で養われることになった!」
明るく宣言したのはマティアスだ。広場の耳目が集めたところでニコリとする。
「ラヴォー男爵夫人は弱い者を捨て置かない。いつも町の皆のことを思っているんだ。『騎士団のレオ』ともども頼りにしてほしい!」
ドッと広場が沸いた。どうなることか固唾をのんでいた人々が手を叩いて喜ぶ。
「おう、よろしく頼むぜ!」
「いいぞいいぞッ!」
「こらガキ、もうかっぱらいなんかするなよ。こっち来て飯を食え!」
男の子に大人たちからお椀が押しつけられる。女の子も助け起こされ、新しい煮込みをよそってもらい帰っていった。
セレスは人々が働くのを見つめた。
自分はまだ知らないことが多すぎる。王宮で学ぶだけでは何もかも足りなかった。
後悔をかみしめている横に来たのはマティアスだ。
「いやいや、さすがだったな」
それは騒ぎを丸くおさめた手腕のこと。セレスが無自覚にやっているのはわかるが、今日の件でレオ夫妻の評判はますます良くなるだろう。マティアスにとってはありがたい流れだ。
「いえ……私にできるのは、ささやかな事だけですから」
「そんなことはない。この炊き出しも、あの男の子が救われるだろうことも、すべて君がきっかけだ。一人で為せることは少ない。でも一人がやろうとすれば、ついてくる人もいるものさ」
「そうでしょうか」
「ああ。私はよく知ってるんだ、何しろ――」
マティアスはフフ、と笑う。
「ちょっとばかり国政にたずさわっているのでね」
「まあ! ふふ、今日は宰相補佐官さまにお手伝いしていただいて申し訳なかったです」
軽口で返したセレスの表情は明るくなる。
――いつも前を向いていこうと思えた。だって、独りではないから。
愛するレオも今、国境で奮闘しているはずだ。