捨てられ仮面令嬢の純真
✻ ✻ ✻
王都ではビルウェン商人ギードが乾いた笑いを漏らしていた。
「……王妃の誕生パーティーですと?」
敬称をつけるのも忘れ、呆れ声になる。その相手は満面の笑みのマティアスだった。
「そうなんだ。陛下が周知させていないのは、いきなりのお祝いで妃殿下を驚かせたいからで」
「はあ……王妃、愛されてますなぁ……」
ギードは冷笑するのさえ面倒くさくなり、投げやりだった。
国境では紛争、王都でも不満うずまくこのご時世。なのに愛妃へのサプライズパーティーを企画する馬鹿王とは。どれだけ世情にうといのか。
ここは再び、ギード商会の応接室だった。
マティアスから王都で起こす暴動の延期を申し入れられ、ギードは説明を求めた。そしてやって来たマティアスが暴露したのは、パーティーの計画。
「この件が広まったら、暴動のきっかけとして申し分ないよ。自然な流れでないと。疑念をもたれたくないからね」
「まったくで」
「でもあんまり自然すぎて、君が暗躍するまでもなかったかもしれないな」
「……タダ働きはご勘弁を」
ギードは念のため釘を刺す。ギード自身とビルウェン王国に益があるからこその謀略だ。言われたマティアスは機嫌良さそうに笑った。
「もちろん。私がいちばんの高みに上ったら、という約束は忘れていない。こちらも信用問題だからな」
「お願いしますよ」
「ああ。で、陛下が明日にも通達を出すはずだ。貴族にはパーティー出席要請、商人には急な仕入れの依頼。もちろん王妃には内緒にせよ、という甘ったるい指示も含めてね」
「そして下々の不満爆発、と」
「そんな流れだ。騒ぎが広がりすぎないように抑える方が重要になるかもしれないな……」
マティアスはそこだけ真顔になった。民や街に被害が広がっては困る。
ギードも深々と頭を下げ同意した。マティアスがすみやかに収拾し、名を上げてもらうために起こす事件なのだから。
二人は細かく打ち合わせる。
主に市中で動くのは、ギード商会の人間として滞在しているビルウェンの連中だ。彼らは事件がマルロワをかき回す陰謀だとは認識しているが、宰相補佐官マティアスが裏にいるのは教えられていないという。
「もし彼らの身柄が拘束されるようなことがあったら、私が内々に手を回そう」
「お願いいたします」
協力者へのそんな気づかいも欠かさないマティアスは、それなりの王になるだろう。
マルロワ王に恩を売ったギードは今後、二国間の貿易で有利に立ち回れる見込み。謀略の片棒をかつぐのは確かに危険だ。だが長い目で見ればこの策は、ギード商会に莫大な利益をもたらすはずなのだった。
王都ではビルウェン商人ギードが乾いた笑いを漏らしていた。
「……王妃の誕生パーティーですと?」
敬称をつけるのも忘れ、呆れ声になる。その相手は満面の笑みのマティアスだった。
「そうなんだ。陛下が周知させていないのは、いきなりのお祝いで妃殿下を驚かせたいからで」
「はあ……王妃、愛されてますなぁ……」
ギードは冷笑するのさえ面倒くさくなり、投げやりだった。
国境では紛争、王都でも不満うずまくこのご時世。なのに愛妃へのサプライズパーティーを企画する馬鹿王とは。どれだけ世情にうといのか。
ここは再び、ギード商会の応接室だった。
マティアスから王都で起こす暴動の延期を申し入れられ、ギードは説明を求めた。そしてやって来たマティアスが暴露したのは、パーティーの計画。
「この件が広まったら、暴動のきっかけとして申し分ないよ。自然な流れでないと。疑念をもたれたくないからね」
「まったくで」
「でもあんまり自然すぎて、君が暗躍するまでもなかったかもしれないな」
「……タダ働きはご勘弁を」
ギードは念のため釘を刺す。ギード自身とビルウェン王国に益があるからこその謀略だ。言われたマティアスは機嫌良さそうに笑った。
「もちろん。私がいちばんの高みに上ったら、という約束は忘れていない。こちらも信用問題だからな」
「お願いしますよ」
「ああ。で、陛下が明日にも通達を出すはずだ。貴族にはパーティー出席要請、商人には急な仕入れの依頼。もちろん王妃には内緒にせよ、という甘ったるい指示も含めてね」
「そして下々の不満爆発、と」
「そんな流れだ。騒ぎが広がりすぎないように抑える方が重要になるかもしれないな……」
マティアスはそこだけ真顔になった。民や街に被害が広がっては困る。
ギードも深々と頭を下げ同意した。マティアスがすみやかに収拾し、名を上げてもらうために起こす事件なのだから。
二人は細かく打ち合わせる。
主に市中で動くのは、ギード商会の人間として滞在しているビルウェンの連中だ。彼らは事件がマルロワをかき回す陰謀だとは認識しているが、宰相補佐官マティアスが裏にいるのは教えられていないという。
「もし彼らの身柄が拘束されるようなことがあったら、私が内々に手を回そう」
「お願いいたします」
協力者へのそんな気づかいも欠かさないマティアスは、それなりの王になるだろう。
マルロワ王に恩を売ったギードは今後、二国間の貿易で有利に立ち回れる見込み。謀略の片棒をかつぐのは確かに危険だ。だが長い目で見ればこの策は、ギード商会に莫大な利益をもたらすはずなのだった。