捨てられ仮面令嬢の純真
✻ ✻ ✻
妹ミレイユの誕生パーティーへ出席するよう命じられたセレスは暗澹とした。
(……今はそんな場合じゃないのに)
王都に暮らす民には、飢えそうな者もいるのだ。貴族たちからも国王夫妻への苦言が陰で相次いでいる。
表立って伝える者は誰もいないのか――と思うが、セレス自身も妹に陳情したが拒絶されたのだった。聞く耳を持たない人間に忠言しても、むしろ憎まれるだけ。
そういえばマティアスも国王の言動を諦めているように思えた。だからせめてもの努力で慈善事業に協力してくれたのかとセレスは勝手に納得する。
炊き出しの時に聞き取ったさまざまな悩みの相談に乗り続けるため、セレスはその後も町におもむいている。おかげで住民には「仮面の男爵夫人」として知られるようになった。
そして警ら隊の面々とも、もう顔見知りだ。巡回の人員がいる時間と場所を教えてもらい、それに合わせて出かけるようにしたのでお供はコラリーだけになっている。でも町をよく知るコラリーは「奥さまを危険な目にはあわせませんよ」と頼もしかった。
「あらウスターシュさん、ご苦労さまでーす」
「やあコラリーさん」
騎士団のウスターシュともよく行きあう。ノリが軽いコラリーとウスターシュは、すぐに打ち解けて話すようになった。ウスターシュはセレスにもにこやかに礼をする。
「レオから手紙、来てます? あいつの様子はどうです、どうせ寂しがってるんでしょうけど」
からかう目をしたウスターシュに、セレスははにかんだ。控えめな愛の言葉が記された手紙はセレスの宝物だ。
レオは王都への伝令のたびにセレスへも手紙を寄越す。詳細な軍事行動については書いたりしないが、砦の兵たちと仲良くなったと知って安心した。領地に目立った被害もなく、早々に事態をおさめるよう策を練っているらしい。
「ねえウスターシュさん、騎士団の巡回ってこんなに多かったです?」
やたらと出会うことに首をかしげてコラリーは尋ねた。ウスターシュはキョロ、としてから声をひそめる。
「フェルナン団長の指示で人数増やしてるんですよねー。ほら、パーティーのことで皆が怒ってるし」
「ああ……すみません奥さま」
気安げに話す二人はセレスに申し訳なさそうにした。妹ミレイユの悪口だからだ。でもその評判は自業自得、セレスは仕方なさそうに首を振る。
「いいのよ。あの子も目を覚ましてくれたらいいのに」
だがセレスの感想はそこで終わらなかった。
「ところで団長のご指示ということは、何か不穏な動きがあるのですね?」
静かに問いただす毅然とした口調。ウスターシュは「やべ」と言ったきり硬直した。
息が白くなる真冬なのに。気のいい騎士団員は、男爵夫人の気品の前に冷や汗を感じていた。
妹ミレイユの誕生パーティーへ出席するよう命じられたセレスは暗澹とした。
(……今はそんな場合じゃないのに)
王都に暮らす民には、飢えそうな者もいるのだ。貴族たちからも国王夫妻への苦言が陰で相次いでいる。
表立って伝える者は誰もいないのか――と思うが、セレス自身も妹に陳情したが拒絶されたのだった。聞く耳を持たない人間に忠言しても、むしろ憎まれるだけ。
そういえばマティアスも国王の言動を諦めているように思えた。だからせめてもの努力で慈善事業に協力してくれたのかとセレスは勝手に納得する。
炊き出しの時に聞き取ったさまざまな悩みの相談に乗り続けるため、セレスはその後も町におもむいている。おかげで住民には「仮面の男爵夫人」として知られるようになった。
そして警ら隊の面々とも、もう顔見知りだ。巡回の人員がいる時間と場所を教えてもらい、それに合わせて出かけるようにしたのでお供はコラリーだけになっている。でも町をよく知るコラリーは「奥さまを危険な目にはあわせませんよ」と頼もしかった。
「あらウスターシュさん、ご苦労さまでーす」
「やあコラリーさん」
騎士団のウスターシュともよく行きあう。ノリが軽いコラリーとウスターシュは、すぐに打ち解けて話すようになった。ウスターシュはセレスにもにこやかに礼をする。
「レオから手紙、来てます? あいつの様子はどうです、どうせ寂しがってるんでしょうけど」
からかう目をしたウスターシュに、セレスははにかんだ。控えめな愛の言葉が記された手紙はセレスの宝物だ。
レオは王都への伝令のたびにセレスへも手紙を寄越す。詳細な軍事行動については書いたりしないが、砦の兵たちと仲良くなったと知って安心した。領地に目立った被害もなく、早々に事態をおさめるよう策を練っているらしい。
「ねえウスターシュさん、騎士団の巡回ってこんなに多かったです?」
やたらと出会うことに首をかしげてコラリーは尋ねた。ウスターシュはキョロ、としてから声をひそめる。
「フェルナン団長の指示で人数増やしてるんですよねー。ほら、パーティーのことで皆が怒ってるし」
「ああ……すみません奥さま」
気安げに話す二人はセレスに申し訳なさそうにした。妹ミレイユの悪口だからだ。でもその評判は自業自得、セレスは仕方なさそうに首を振る。
「いいのよ。あの子も目を覚ましてくれたらいいのに」
だがセレスの感想はそこで終わらなかった。
「ところで団長のご指示ということは、何か不穏な動きがあるのですね?」
静かに問いただす毅然とした口調。ウスターシュは「やべ」と言ったきり硬直した。
息が白くなる真冬なのに。気のいい騎士団員は、男爵夫人の気品の前に冷や汗を感じていた。