捨てられ仮面令嬢の純真
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 セレスから届いた手紙に目を通し、執務室のマティアスはため息をついた。

(バレたか……)

 だが、半分だけだ。重要な部分についてはまだ大丈夫。
 セレスの書簡は陰謀そのものに気づいたのではなかった。騎士団が目を光らせるほど王都の雰囲気は危険なのかと尋ねてきたのだ。

 マティアスは騎士団に対し、「騒乱が憂慮されるので住民に被害が及ばぬよう見回りを強化せよ」と指示した。
 それは暴動を起こした後、すみやかに鎮圧し範囲を広げさせないため。そして無関係の悪党が触発され乱暴を働いてもすぐ制圧できるようにとの備えだ。
 謀略の実行は二日後。そこに向け、マティアスは自然に警戒態勢を整えていっている。

「我が義妹は本当に物事をよく見ているよ」

 勤勉で、おごらず、出しゃばりはしないが困っている人を見過ごせない。根底にあるのは優しさと慈愛。
 セレスはその純真によりレオの心をとらえ、そして民の尊敬も集めつつある。
 こんな女性がレオを愛してくれたことにマティアスは感謝した。弟の幸せを祈る気持ちは本当なのだ。

「少し苦労をかけてしまうが……」

 これから起こる政変へ、レオも共に立ち向かってほしい。
 我がままな願いを胸に、マティアスはセレスへ返書をしたためた。しばらくは館で安全に過ごしているように、と。
 騒動でセレスの身に何かあったら、レオは立ち直れないほど悲しむだろう。それはマティアスにとっても痛恨の未来。この計画が潰えるに等しい打撃だ。
 ――コンコン。軽いノックにマティアスは書き物の手をとめる。

「はい、どうぞ」
「補佐官殿、失敬」

 丁重な姿勢ながら悠々と入ってきたのは将軍だった。レオが師事した軍人は、晴れやかな顔をしている。

「――やりましたぞ。貴殿の弟君は仕事が早い」

 ヒラ、と執務机に置かれた書簡は、国境の砦にいるレオからの戦勝報告だった。


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