捨てられ仮面令嬢の純真
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 レオの「イタズラ」に翻弄されたべーレンツ伯はしびれを切らし、ビルウェン中央の援軍なしで動いた。不安に駆られた将兵からの突き上げで動かざるを得なかったのだ。
 マルロワ軍の主力は砦にこもっている。
 数としては同等か、あるいはベーレンツ伯軍が上まわっていると斥候は上申した。
 斥候が帰ってくるのだから、森も制圧されているわけではない。

 ――街道より正面突破。同時に軽装歩兵を森に展開し、側面を警戒せよ。

 ベーレンツ伯はそう命じた。


 相手が全軍をあげて動いたのは、すぐ砦のレオに伝わった。こちらも街道に騎兵部隊を集結、進軍させ迎え撃つ。

 しかし実はこの時点ですでに、トマたち砦の警備隊は森をほぼ押さえていたのだ。
 ベーレンツ伯の放った斥候が無事に帰ったのは、泳がされていただけ。そこここに仕掛けられた罠、そしていきなり飛んでくる矢により、伯軍の森林部隊は遅々として進めなかった。

 街道の本隊の方ではマルロワが劣勢だった。
 広くもない道のこと、先陣同士でやり合うしかない。だが先頭に立つ騎馬隊は何故か戦意が高くなかった。少しベーレンツ伯軍と剣を合わせたかと思うとすぐに退き、弓兵の斉射によりさらに退き……とじりじり砦近くまで押されてしまう。
 その時だ。
 マルロワ軍の先頭にいた栗色の髪の指揮官――レオが「撃てッ」と叫んだ。同時に騎馬隊が散開する。
 ドオォーンッ!
 轟音は伯軍の先頭に着弾した岩によるものだった。砦の上から投石器で狙ったのだ。続いて一撃、二撃。初弾ほどの大きさではないが石が降ってくる。
 浮足立ったベーレンツ伯軍へ、マルロワの弓兵から斉射が浴びせられた。弓で応戦しようにも投石から逃れる騎馬兵が邪魔をする。それにこの距離では砦の上に矢は届かないのだ。
 誘い込まれた。
 ベーレンツ伯は舌打ちする。ここはいったん退いて立て直そう。
 伯は後退を指示するが、そこへいきなり森の中からも射掛けられた。兵は混乱し、我先に走り出す。
 こうなると収拾がつかない。元より戦意が低かったベーレンツ伯軍は一気に壊走し、張っていた陣も放棄し逃走したのだった。


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