捨てられ仮面令嬢の純真


「ああ……そうきたか」

 つぶやいたのはマティアスだった。昨日から宰相ラヴォー公爵とともに王宮に詰め、暴動対応にあたっている。
 今ここには主だった貴族たちが集まり緊急の会議を開いていた。重要な議題があるのだが、国王リュシアンの姿はない。
 その理由は、届けられた一通の要望書の内容のせいだった。それは、有力商人たちと大きな職人組合いくつかが連名で提出して来た物だ。
 政府に突きつけられたのは――リュシアンの退位要求。

「うむ――」

 ラヴォー公爵はがっくりと肩を落としていた。先王の時代に宰相となりマルロワのため尽くしてきた努力が、民衆には認められなかったということだからさもありなん。

「父上は精一杯のことをなさいましたよ」

 マティアスの表情も硬い。いや、そう装っていた。
 リュシアンを退位させたら、その次に継承権を持っているのはマティアスだ。これはマティアスを次代の王として推すべきか否かという会議なのだった。本人としては否定も肯定もしにくい。

 そういう流れになるよう謀ったのはマティアス本人。だがここまで明確な形で外部から要求が出るとは。

(ギードのやつ、さりげなく焚きつけたのか?)

 商人たちの不安をあおり、言説を操ったのかもしれない。頼りになる男だ。

「すまないが、我がラヴォー家はこの件について発言することはできん」

 静まり返った貴族たちに、ラヴォー公爵は宰相としての職責を一時停止すると宣した。

「現在の王位継承権、一位と二位は私の息子たちだ。そんな立場では皆々さまの裁定を待つしかないと思う。ご理解いただきたい」

 そこで是非うちの息子に王位を、などと言わないところがラヴォー公爵だった。もちろんマティアスもそれに倣う。

「自由に発言していただくためにも、私は席を外しましょう――マルロワの今後のため、活発な議論をお願いいたします」


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