捨てられ仮面令嬢の純真
✻ ✻ ✻


 民から人気の「仮面の男爵夫人」セレスはその日、館で焼いたパンを荷造りしていた。あとは林檎や酢漬けの野菜なども。それらを孤児院に差し入れるのだ。

「何も奥さまが行かれませんでも……」
「いいえコラリー。私が行きたいの」

 以前訪れた孤児院は寒々しく、子どもたちに生気がとぼしかった。それを変えるべくセレスはささやかな支援を続けている。その縁で、炊き出しの日に助けた男の子もそこに預けた。
 だが資金があっても市場が開かないと食べ物は買えない。どうしているか様子を見たくなったのだ。

「じゃあ参りましょう」
「はあ……そこらにウスターシュさんでもいませんかねえ」

 コラリーがぼやいてセレスは笑ってしまった。貴族が住まう地区は騎士団が巡回してくれている。その一人を護衛に使おうとはコラリーもいい根性だ。
 差し入れの荷物を抱えた下男や執事ダニエルも付き添ってくれたので、ひとまずの男手はある。でもセレスだって、ふと不安を感じた。それはレオが隣にいないから。

(こんな騒ぎの時に、レオさまがいてくれたら――)

 レオから「大丈夫だ」と抱きしめられたなら、きっと何も怖くない。

(――でもあの人、暴徒の真ん中に突っ込んでいって仲裁を始めるかもしれないわ)

 責任感の塊のような人だから。その可能性を思いついてセレスはぞっとした。後ろで待っていたら心配で死にそうになるだろう。
 だがセレス自身もこうして外に出ている。それをレオが知ったらどう思うかというのが頭からすっぽり抜けているセレスだった。
 今のセレスは、人々を助けなければ、としか思っていない。それがセレスの真心だから。

 勝利の伝令を早馬で寄越したレオ。無事に帰還する手はずになったとマティアスから連絡があり、セレスは再会を心待ちにしている。
 そのレオが今日にも王都に到着する速さで進んでいることを、セレスはまだ知らなかった。

< 117 / 150 >

この作品をシェア

pagetop