捨てられ仮面令嬢の純真
差し入れを用意して孤児院を訪れたセレスは悲鳴を飲み込んだ。怪我人が多数いたのだ。大人も、子どもも。
青ざめながら駆け寄ってみれば、彼らは孤児院とは関係のない人々だった。
「何があったのですか!」
「なんでも、家に押し込まれたんだそうで……」
傷を洗う水を桶で運んでいた院長が答えてくれた。
「強盗ですよ。市場が閉まって売れなかった品物が家にあるはずだと」
「なんてこと……」
市場の周辺であちこちの家が荒らされたらしい。警ら隊の目をかいくぐる盗賊がいたのだ。
一時大混乱におちいった町からは住民が大挙して逃げ出し、教会などに身を寄せているという。
「私どもの孤児院はラヴォー男爵家のご支援を受けているので安全だ。そう言われたら受け入れるしかありませんな」
初対面では小ずるい弁舌で寄付を引き出そうとした孤児院長だが、運営に余裕が出たからか人の好いことを言う。率先して治療に働いているのを見れば根は人のためを思う気質なのだろう。
「だんしゃく夫人さま……?」
疲れきった細い声に呼ばれた。振り向くと、そこにいたのは炊き出しの時にパンをひったくられ転んでいた女の子だ。確か親は病気なのではなかったか。セレスは駆け寄って確認する。
「怪我はしていないのね、よかった」
「うん。おとなりに、どろぼうが来たの。父さんと母さん寝てなきゃダメだけど、危ないから逃げてきた」
「そう……怖かったわね」
「……うん」
女の子はベソ、と涙目になる。セレスはそっと腕を回して抱き寄せると背をトントンして励ました。
「ご両親がここまで来るのも大変だったでしょうに。あなたが守ったの? 勇敢だったわ」
「……あたし、がんばった」
グッと顔を上げ誇らしげにニコリとする女の子の瞳が透きとおっていた。
――それでセレスは覚悟を決める。私も勇気を出そう。
誰もがただ平穏に暮らしていきたいだけだ。
でもそのためには物事の流れを整える者がなくてはならない。品物の売り買いを守り、優れた才があれば取り立て、敵が来れば跳ねのけ、弱い者には手を差し伸べる。
レオは国境で戦った。
マティアスは政を支えようと奮闘している。
では、セレスが為すべきことは。
「――王宮へ行きます」
そう告げるセレスの声は、これまでになく凛々しかった。