捨てられ仮面令嬢の純真
「――――セレスティーヌ」
苦しげな声に呼ばれたような気がしてセレスは目を開けた。そして息を飲む。栗色の髪がすぐ近くにあったのだ。その主は――レオ・ド・ラヴォー。
「――!」
「失礼――! 今、こちらにお運びしたところで」
慌てて跳び離れるレオの手には、騎士団の上着があった。
セレスが横たわっているのはサンルームの長椅子だ。いつもリュシアンと気まずく茶を飲んでいた部屋が空虚にセレスを迎えた。手足の先が冷たくて、セレスはふるえるように呼吸をととのえた。
「殿下の執務室で倒れたあなたをサンルームへお連れしろとのことで――やむなく手をふれましたが、この上着でくるませていただいて直接は、あの」
言い訳するレオがいつもより饒舌で、セレスはぼんやりする。いや、「いつも」と言えるほど親しくはないのだが。
「ありがとうございます……」
ゆっくり起き上がり礼を言ったとたん、セレスの目から涙がこぼれた。左の頬が濡れる。右の目から流れた涙は、仮面に吸われて消えた。
「あ」
「セレ――いえ、お使いください」
すぐにレオはハンカチを渡してくれた。そしてクルリと後ろを向くのは、取り乱した女性から目をそらすため。あくまで紳士な男だ。
セレスは貸してもらったハンカチでそっと目を押さえる。しばらく涙を落ち着かせた末、口にしたのは悲しい現実だった。
「私――もう王太子妃にはなりません。なので公爵子息さまから目上のように扱っていただくのは困るんです」
「――!」
思わず振り向いたレオは、驚きに目をみはっていた。