捨てられ仮面令嬢の純真
王宮前の広場には人が集まってきており、警戒の騎士団員が何重にも門を守っていた。
物資を配給するという話に期待して来た貧しい者が多い。だが身なりの整った連中もいて、それは商会から寄越されたのだろう。提出した要望書への反応をうかがっているのだ。
「……これは何を待ってるんだ?」
「うーん。配給じゃなさそうな人もいるね」
退位要求があったことを末端のウスターシュはまだ知らない。レオと一緒に首をひねった。
広場に馬を曳いてやって来たレオの姿は目立つ。その人が「騎士団のレオさん」だとわかり広場はざわついた。国境で勝ったらしいと噂になっていたのだ。小さく歓声があがり、レオは手を挙げて応えた。
門をくぐったレオはすぐリュシアンに取り次ぎを願う。騎士団に戻るウスターシュと別れ、ひとりで謁見を待った。しかしレオを迎えにきたのは案内の侍従ではなかった。
「やあレオ、お帰り」
「兄さん!」
椅子から飛び上がったレオの肩をマティアスは強く抱いた。無事に帰ると信じてはいたが、それはそれとして安堵したのだ。
「兄さん、こっちの情勢はどうなってる?」
「すまんな、帰るなり心配させて――有力な商人や組合に沈静化への協力を求めているんだが、今朝になって向こうから条件を付けてきた」
「どんな?」
レオは普通に尋ねたのだが、マティアスは弟の耳に口を寄せた。ささやく。
「……陛下の退位だ」
「なっ……!」
ひと声叫んでレオは絶句した。しばらく留守にした間に、そこまでの事態になっていたのか。
だがしかし、となると。
「兄さんが……?」
「私は柄じゃないと思うんだがなあ。今、高位の貴族たちで会議中さ。当事者なので中座してきた」
「ああ……いや、しかし兄さんなら立派に」
「まあまあ」
マティアスは軽い調子で笑うとレオの背を押して部屋の外へうながした。今は謁見などできない。ここで待機していても無駄だ。
「陛下は何も知らされず部屋に軟禁されているよ。レオが戦果を奏上する相手は未定だ」
「……なんてこった」
廊下を歩きながらレオはクシャ、と髪の毛をかき回した。カツカツという二人分の足音がむなしく響く。王位とはこんなにあっけなく奪われるものなのか。豪奢な王宮などただの張りぼてだと身にしみた。