捨てられ仮面令嬢の純真
館に近い教会へおもむき、セレスは避難してきた人々を励ましていた。
パンを配り、足りない物はないか尋ね、騒動は広がっていないしすぐに帰れると説く。
「宰相さまも補佐官さまも、民のことをとても考えていらっしゃるの。少し待っていてくださいね」
低いところから共感をこめて語りかける男爵夫人。いつも人々に声を掛け、炊き出しをしてきた若い女性に誰もが心を許した。しかもこの人の夫は国境を守るために出陣しているのだ――。
「――いたいた! レオの奥方――ッ!」
軽く開かれていた教会の扉から中をのぞき、嬉しそうな声をあげたのはウスターシュだった。お馴染みの騎士団員にセレスもコラリーも振り返る。
「ウスターシュさん、どうしたんです?」
コラリーが大声で尋ねるとウスターシュはデレ、とニヤけた。明るく律動的なコラリーの話し方は、やっぱり好ましい。
「レオが戻ってきたんです」
「レオさまが?」
セレスの声が喜びにはずんだ。自然に小走りになり駆け寄る。
「今はどちらに」
「ひとまず勝利報告しに王宮に行ってるんで、奥方を呼んでこいって補佐官殿が」
避難民の間からも歓声があがった。
「騎士団のレオさん」が勝って戻った。そして、住民に寄りそって留守を守ってきた「仮面の男爵夫人」が再会のため呼ばれている――なんてめでたい!
「やったじゃないか、早く行ってきな!」
「良かったねぇ、無事に戻ってくれて」
「レオさんとセレスちゃんがいりゃあ、王都も大丈夫さね」
もう「セレスちゃん」呼びもひそかに広まっていたらしい。元凶のパン屋のおかみが縮こまって申し訳なさそうにした。
「あはは……だって、ねえ?」
「いいんですよ。親しんでもらえて嬉しいわ」
「こんな可愛い奥さんだから、つい」
「そんな」
セレスは無意識に仮面に手をふれていた。傷跡は結局、まだレオにも見せていない。だがパン屋のおかみは豪快に笑った。
「ちょっとの傷なんて誰も気にしやしないよ。セレスちゃんは中身が可愛いし優しいんだ。だからあたしゃセレスちゃんを応援してるんだからね!」
そうだぞ、とあちこちから声があがる。避難民から逆に励まされ、セレスは泣きそうになった。
「さあ早く。レオが待ってますよ」
ウスターシュが笑顔でうながしてくれる。セレスはそこにいる人々へ、深々と礼をした。
「ありがとう、皆さま。では行って参ります」
セレスは教会を出ると、はしたなくも駆け出した。
だってレオに会えるのだ。恋しくてたまらなかった、レオに。