捨てられ仮面令嬢の純真
  ✻

「それにしても、ずいぶん頑張ったね」

 ため息とともに廊下を歩くセレスを横目でながめ、マティアスは微笑む。
 勝てなかったけれど、まだ負けてはいない。セレスはそういう顔だった。

「お義兄さまにはご迷惑をおかけして」
「いや、いいのさ。私も言いたかったことだ」
「……私にできることをやらなければと思ったのです。戦うレオさまの隣にいたければ、逃げていてはいけない、と」

 レオにふさわしくありたい。そう告白されてマティアスは立ちどまった。弟はなんて果報な男なのだろうか。深々と頭を下げる。

「レオのこと、よろしく頼むよ」
「おやめくださいませ」

 慌てるセレスをマティアスは誘う。

「本当に王宮でレオを待つといい」
「……よろしいのですか?」
「言ったろう? レオが喜ぶ、と。待ってやっておくれ」

 セレスは花がほころぶような笑みを見せた。

「では、甘えさせていただきます」
「レオが着いたら控えの間へ報せるよう手配するから。執事を帰して館へ伝えさせるといい。夫婦で帰る、とね」

 宮殿の表へ向かう。すると何やら騒がしい足音が近づいてきてマティアスは眉をひそめた。現れたのは騎士団員を数人連れた団長フェルナンと、宰相ラヴォー公爵。

「父上」
「お義父さま」

 驚くセレスに目礼し、フェルナンたちは奥へ消えていく。しかし公爵の方は息子のマティアスに用事があるのだった。

「商組合から要望書が届いた。緊急の会議を開かねばならん。マティアスも出席を」

 公爵の顔は険しい。
 商組合には倉庫襲撃を回避するための協力を求めていた。配給用の物資を提供せよ、と要求したのだが――。

「どんな返事でしたか」

 問われて、公爵はセレスに目をやった。
 聞いてはいけない話だとわかり、セレスは一礼して二人と別れた。

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