捨てられ仮面令嬢の純真

 レオは、王宮前広場にザッと足を進めていた。
 門を守る騎士団員たちが静かに道をあける。半歩ななめ後ろにつけたマティアスとともに、民衆の前に出た。

「みんな――」

 仲間に対するようなレオの呼びかけ。民衆が固唾をのむ。

「どうやら大変な苦労をかけているようだ。俺はさっきビルウェンとの国境から戻ってきた。このたび街のあちこちが封鎖されたことに無力だったのを詫びよう」

 軽いざわめきが起きたが、人々はおとなしく聞いていた。
 だが実は、しゃべっているレオも「何をやらされているのか」と困惑気味。言うべきことをマティアスがささやいてくるのだった。

「(敵は撃退したから安心、と大げさに)」
「マルロワの地を奪わんとした連中は、すみやかに去らせた! 国境の砦は堅牢で、なんの憂いもない!」

 人々から拍手と歓声が起こるのをレオは戸惑いつつ聞いた。
 だってレオはただの騎士団員。男爵として領地のため戦いに行ったが、王都の暴動に関してはなんの権限もない。どんな立場で話せというのか、ほとんどヤケクソだった。

「(これからはレオが王都を守る、と)」
「しぱらく留守にしていたが、俺も王都へ戻れた。またみんなのために働くことができて嬉しい。富める者、貧しい者、すべての民が幸せであれるよう力を尽くすつもりだ!」

 オオーッとどよめきが広場を揺らす。
 事前にマティアスからは「上の立場から語りかける感じで」と注文されていた。レオの父は筆頭公爵で、演説も幼い頃から見慣れている。そんな雰囲気でやってみたら聴衆がノリノリになってきて、レオは軽くビビった。だがマティアスは容赦ない。

「(贅沢をあらため民に寄りそうと約束しろ)」
「このところ何かと式典を行わなくてはならず、また戦も起こってみんなに負担を掛けたのはわかっている。今後は奢侈をあらためるべきだろう」

(いや、それを俺が言っていいのか?)

 もっともらしく話しているくせに、レオ自身にも迷いはあった。でもこうなったら突っ切るしかない。

「(もうひと声。不作の年は食料輸入もすると)」
「特に今年は小麦の出来が悪かった。そのような場合は貿易も活用するべきだと思う。民を飢えさせてはならないと俺は考える」

 今度は商人たちからも大きな喝采があった。関税優遇だの買上げ措置だのを期待してのことだ。

「((まつりごと)を作り直し、国を支えるので今は耐えてくれと)」
「みんなには我慢ばかり強いたとわかっている。だがこれから政は変わるだろう。俺もマルロワのために存分に働こうと思う。今こうして不満を訴えたみんなの心はよくわかった。だがあと少し、時をくれないだろうか!」

 拍手が起こった。そこそこ大きく。だが――熱狂的とまでは言えない。

(具体的な提示はできないんだよな……)

 マティアスは民衆の空気を読みながら必死に頭を働かせていた。ここが勝負の時なのだ。配給の決定や減税でも布告できれば勝ち確なのに――。

「――あ、レオ! ほら奥方を連れてきたよー!」

 広場の空気を読まない発言が端の方から響いて誰もが振り返った。

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