捨てられ仮面令嬢の純真
そこにいるのはウスターシュ――と、息を切らしたセレスだった。教会から小走りに駆けつけたのだ。
「セレス!」
その瞬間レオは愛する妻の姿以外、何も見えなくなった。集まった人々もざわめきも、知覚できなくなる。
「レオさま――」
セレスも夫の無事を目で確かめて泣きそうだった。愛おしげなまなざしが揺れる。レオへすがりつきたくて腕を伸べた。
大またに駆け寄ったレオがセレスの腰をガシリと抱き上げた。セレスが驚いて息をとめるのにかまわず、そのままグルグル回る。レオの肩につかまったセレスはくすぐったそうに笑った。
「やん、レオさま、おろしてくださいな」
「ああセレス……」
レオは立ちどまったがセレスの胸に顔をうずめ離れなかった。そんな夫の乱れた髪をそっとなで、セレスは頬ずりする。
「……お帰りなさいませ」
待っていた。会いたかった。生きていてくれてよかった。
万感のこもったその声が広場に染み渡る。
「ああ。ただいま、セレス」
ワアッという人々の大歓声が二人を包んだ。
それにはさすがのレオも気づく。祝福と冷やかしに慌てたレオは、セレスを地面におろした。公衆の面前で愛を語ってしまいセレスは真っ赤になる。
相愛の夫婦をながめて朗々とのたまったのが、マティアスだった。
「レオは国を守った。その夫人は民のため力を尽くしている。なんて似合いなのだろうか!」
からかいを含みつつ褒め称える言葉に、人々は大いに笑った。しかしマティアスはそこで真顔に戻る。
――騒動はまだ終わっていない。むしろここからが本番なのだ。
「やっと再会できたところ悪いのだが……二人に少々話したいことがある」
王宮へとうながされ、レオは表情をあらためた。
マティアスが中座してきたという席――リュシアンの退位について協議していた会議はどうなったのか。レオもセレスもその行方に無関係ではない。
もしリュシアンが退位するならば、セレスの妹ミレイユは王妃の座から転がり落ちる。
そしてその後に即位するのは順当にいけばレオの兄・マティアスになるのだ。