捨てられ仮面令嬢の純真
夫を新王にという要請をセレスは微動だにせず聞いていた。
数瞬、意味が取れなくて言われた言葉を反芻する。そして理解した時、呼吸がとまりそうになった。
「俺を……王にだと」
横でレオがつぶやいた。こちらもあっけにとられている。正式な場なのに「俺」と言ってしまうほどには動揺したらしい。
「レオがふさわしいと思ったから推薦したまでだ。受けてくれないか?」
静かに言ったのはマティアスだった。
王位継承権第一位であるはずの、兄。その人みずから「ぜひレオに」と申し出たという。
「どうしてだ。兄さんなら不足なく政務を執るだろうに。俺……私では知識が軍事に偏りすぎていて」
「レオの方がと考えた理由はいくつかある」
弟の反論など織り込み済みのマティアスは、よどみなく数え上げた。
ひとつ。現王に近かったマティアスでは民衆の印象が悪く、不満が解消できない。
ふたつ。ビルウェンなど近隣の情勢をかんがみれば、侮られないため武に長けた王を戴くのがよい。
みっつ。妻が王妃として申し分のない人である。
「特に最後のは――重要だろう?」
いきなり話題にされ、セレスは背すじを伸ばした。
卓に並ぶ人々からの視線はどれも熱い賛同を伝えるもの。今の王妃ミレイユと比べるのすら、セレスに失礼だと誰もが考えたのだ。