捨てられ仮面令嬢の純真
セレスは王太子の婚約者としてずっと努力してきた。その立場を失ってからも「仮面の男爵夫人」は市井に目を向け民をいつくしみ――民から尊敬の念を集めている。
マティアスは戸惑う弟夫婦に優しく言い聞かせた。
「この情勢では、国民に寄りそえる王妃の存在が大切だ。しかも政務を熟知し、王を助ける資質まで身につけているんだよ? 私の妻も素晴らしい女性ではあるが、王妃としての教育は受けていないからな」
選択の決め手となったのはセレスなのだと言われ、レオは言葉に詰まった。確かに――これ以上の王妃など他にあり得ない。
マティアスの後を引き取り、ラヴォー公爵は次男の嫁に語りかけた。
「今さら何をと思われるかもしれない。だが――あなたならマルロワ王国の母となり、民を導いていけるだろう。あなたの力を、この国とレオのために使ってくれないだろうか」
セレスは不思議と静かな心持ちで卓を見渡した。皆がセレスとレオの反応を待っている。セレスはしみじみと想いをかみしめた。
(――私がしてきたことは、無駄ではなかった)
誰もがセレスを認めてくれたのだ。それがわかって涙があふれかける。
(そうよ……ないがしろにされていた王太子婚約者の頃だって、レオさまはちゃんと私を見ていてくれたじゃないの。正しいことを貫けば、いつか報われる。私は……私のままでいてよかったのね)
そっと隣のレオに視線をやる。誰よりもセレスを認め、愛してくれている夫は、決意に満ちたまなざしを返してきた。
――応えてもいいか。
そう訊かれた気がする。
セレスは透きとおるように微笑むと、小さくうなずいた。