捨てられ仮面令嬢の純真
 門をくぐったレオは、騎士団に戻るウスターシュと別れた。そして独り、国王リュシアンへの取り次ぎを願い出たのだが――案内された控えの間には先客がいた。

「レオさま!」
「セレス?」

 はじけるように立ち上がったセレスが瞳を潤ませる。いきなりの再会にレオは自分の頬をはたいた。

「夢じゃないのか? どうして王宮にセレスが」

 脱いだマントを放り出し、レオは妻の元に駆け寄る。おそるおそる触れた頬は、確かにセレスだ。たまらずにグイ、と抱きしめた。セレスも愛おしい胸に顔をうずめる。
 戦地へおもむく夫を見送った朝からの緊張が溶ける気がした。やっと帰ってきてくれた。無事でよかった。だが頭の上から降ってくるレオの声に心配がにじんでいる。

「セレス、こんなところで俺を待っていたのか。王都は危ないのだろうに、館にいなきゃ駄目じゃないか」
「……私、陛下にお願いがあって来たのです……はねつけられましたけど」
「陛下?」

 セレスは寂しそうに目を伏せる。民に寄り添ってほしいという願いは国王夫妻に届かなかった。

「レオさまが帰るまでにこの混乱を鎮めたくて。でも力が及びませんでした」
「セレス……」

 申し訳なさそうにするセレスだが、レオはそんなことどうでもよかった。元気にしていてくれればいい。そっと唇をついばもうとしたのだが、そこでコンコンとドアが鳴り二人は飛び離れた。

「……お邪魔かな?」

 ヒョイとのぞいたのはマティアスだ。

「兄さん!」
「やあレオ、お帰り」

 言葉は軽いが、マティアスもさすがにホッとしている。弟を戦地に追いやる陰謀を企んだのはマティアスなのだ。

「無事でなにより。いいところに帰ってきてくれたよ」
「兄さん、こっちの情勢はどうなってる?」
「すまんな、帰るなり心配させて――商組合や有力商人に沈静化への協力を求めているんだが、さっき向こうから条件を付けてきた」
「どんな?」

 訊き返され、マティアスはセレスのこともチラリとする。

「……陛下の退位だ」
「なっ……!」
「まあ……!」

 男爵夫婦は絶句した。そこまでの事態になったのか。先ほど宰相がマティアスを呼びに来た理由が判明し、セレスは身ぶるいする。自分は政変のただ中にいるのだ。
 だがしかし。そうなると。

「兄さんが、その後を……?」
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