捨てられ仮面令嬢の純真
廊下を近づいてくるのはマティアスだった。その後ろにはレオもいる。二人を見てリュシアンはハッとした。そういえばこの従兄たちには王位継承権がある。
「マティアス、おまえが王になるのか!?」
「あはは、またそんな濡れ衣を」
ヒラヒラと手を振って、マティアスは横にどいた。にこやかに弟の姿を示す。
「王座はこの、レオに譲りました!」
心底嬉しそうに、二ヘラと笑うマティアス。父のラヴォー公爵は軽い頭痛をおぼえた。
この長男は昔から弟を溺愛していたのだ。その性根はいい大人になった今も、ちっとも変わっていないらしい。レオが国の頂点に立ち人々の尊敬を受ける姿を見るためなら、自分が裏方に回るぐらい喜んでするのだ。そんな志向を知るのは家族ぐらいのものだが。
「レオ――だと」
リュシアンは絶望の目で従兄を見た。では、王妃になるのは――。
レオは沈痛な面もちでリュシアンと視線を合わせた。しかしその目の底にあるのは、怒り。
セレスを嘲笑した男と、ようやく歯に衣着せず話ができる。
「リュシアン」
呼び捨てると、リュシアンはギリと奥歯を鳴らした。レオは気にもとめない。もうレオは、リュシアンを丁重に扱わなくていいのだ。
「セレスを捨ててくれて心から礼を言う。おかげであんなに素晴らしい人を妻にできた」
「レ、レオ、貴様!」
「その点は感謝するが、貴様が国を傾けたのは事実。罪を悔いながら生きるがいい――セレスを侮辱したことも含めてな」
レオはクルリと背を向けた。
そして、二度と振り返らなかった。