捨てられ仮面令嬢の純真
「(贅沢をあらため民に寄りそうと約束しろ)」
「このところ何かと式典を行わなくてはならず、また戦も起こってしまった。みんなに負担を掛けたのはわかっている。今後は奢侈をあらためるべきだろう」

 レオはそれを言う立場ではないのだが。もっともらしく話しているくせにレオ自身にも迷いがあった。でもこうなったら突っ切るしかない。

「(もうひと声。不作の年は食料輸入もすると)」
「特に今年は小麦の出来が悪かった。そのような場合は貿易も活用するべきだと思う。民を飢えさせてはならないと俺は考える」

 今度は商人たちからも大きな喝采があった。関税優遇だの国庫による買上げ措置だのを期待してのことだ。

「((まつりごと)を作り直し、国を支えるので今は耐えてくれと)」
「みんなには我慢ばかり強いたな。だがこれから政は変わるだろう。俺もマルロワのために存分に働こうと思う。今こうして不満を訴えたみんなの心はよくわかった。だがあと少し、時をくれないだろうか!」

 拍手が起こった。歓声が沸く。「頼むぞ、レオさん!」の声。そして――「男爵夫人、いつもありがとうな!」。

「――皆さま」

 自分を呼ぶ声に突き動かされ、セレスは口を開いた。いつもの市場にいるようにやさしく呼びかける。

「お願いです、今は家に帰りましょう。人が集まっていると警らに出ないわけにいきません。不穏な空気があれば市場を開けることもできません。皆が飢えてしまいます。どうか――どうか!」

 真っ直ぐに訴えるセレスのひたむきさに民衆も耳を傾けた。顔を見合わせうなずき合う者たちもいる。
 先ほどのレオへ向けた反応は、厚い信頼。だがセレスへ人々が寄せるのはもっと温かい何かのような気がする。
 いつの間にか民に愛されていた妻のことが誇らしく、レオは戦いの疲れが癒えるように感じた。

 人々の空気がやわらかく揺れたところでマティアスが進み出た。

「我らは決してマルロワの民を見捨てません。議場では今、この国を動かすため議論が尽くされているところです。信じて待っていてくれませんか」
「そのとおりだ。きっと――何かが変わる」

 力強く断言するレオの言葉に、どこからともなく賛同の声援が上がった。

「レオさん万歳! セレスちゃん頑張ってくれ!」

 気安い呼び名が聞こえてきてセレスは目をパチパチする。いつの間にその言い方が広まったのだろう。
 ついレオを見上げて困った顔をしてしまうと、たまらず吹き出したレオと一緒に広場か笑顔に埋めつくされた。


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