捨てられ仮面令嬢の純真
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 広場から引っ込んだセレスとレオの仕事ぶりに、マティアスは上機嫌だった。悠然とした足取りで廊下を奥へ向かう。

「悪いがまだ付き合ってもらうよ。やっと再会できたところだが……決着がつくまで帰すわけにいかなくてね」
「議論は――どうなったかな」

 マティアスが中座してきた会議――リュシアンの退位についての協議はどうなったのか。レオもセレスもその行方に無関係ではない。
 もしリュシアンが退位するならば、セレスの妹ミレイユは王妃の座から転がり落ちる。
 そしてその後に即位するのは順当にいけばレオの兄・マティアスになるのだ。

 王宮の会議場に招き入れられ、セレスは緊張に硬くなっていた。さすがに慣れない場所だ。
 セレスに議論を聞く必要があるだろうか。控えの間にいた方がいいのでは。不安にかられるが、隣のレオも難しい顔だった。

 会議の結果は二人とも知らない。ともに議場へ戻ってきたマティアスも。
 マティアスは、ある提案を父ラヴォー公爵に預けてから広場に出ていたのだが――どうなっただろう。

「セレスティーヌ、さすが我がヴァリエ家の娘だ」

 突然浴びせられた称賛の言葉は、セレスの父からだった。意味がわからなくてセレスは夫に体を寄せる。
 父であるヴァリエ侯爵はいつも長女セレスを厳しく躾け、次女のミレイユは甘やかして放任していたのに。何を今さらすり寄るようなことを。

「ヴァリエ侯爵、お控え下さい」

 冷ややかに制したのは宰相ラヴォー公爵だった。対照的にマティアスは勝利の笑みを浮かべる。自分の案が通ったとわかったのだ。

「父上、ではあのように?」
「うむ。皆さま方もなるほどとうなずかれた。あとは本人次第だが――」

 そこにいた一堂の視線がレオに集まる。隣のセレスも一緒に注目を浴び――胸騒ぎにふるえそうだった。貴婦人としての矜持をかき集め、なんとか耐える。

 何故か円卓の奥、宰相の隣席へ座らされたセレスとレオは戸惑っていた。
 だが何か予感がする――新たな人生の幕が上がるような、期待と怖れが入り混じる感覚だった。

 皆の着席を確かめ、自分はス、と立ち上がった宰相ラヴォー公爵。重々しく口を開く。

「我々は国王リュシアン・ド・マルローに退位を求める。そして新たな王として立つべきは――」

 ラヴォー公爵は隣に座ったみずからの次男を見やった。

「継承権第二位を保持する者、レオ・ド・ラヴォーだと認定した」

 異議なし、の声が議場に響いた。

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