捨てられ仮面令嬢の純真
「……疲れたな、セレス」
久しぶりに同じ寝台にもぐり込み、レオは愛妻を抱きよせた。髪に指を入れ、梳く。
「レオさま……」
セレスはめずらしく甘え、胸に頬を寄せた。レオの匂いがして泣きたくなった。こうしていられれば何もいらない。
だが二人には今後、たくさんのものが付きまとうはずだ。国を率いる不安も、責任も。富や権威や名声だって得られるだろう。
だけどセレスが本当にほしいのは、レオだけ。
それはたぶんレオも同じだ。
レオの手がセレスの頭を引き寄せた。唇を合わせ、求め合う。セレスも夢中でレオをついばんだ。こんなにレオがほしかったのかと自分でも驚いた。
(――ああ、私)
もういいのだ。
セレスはセレス。正直になれば、それで。
そのままのセレスだけを見てくれるレオがいて。町にはセレスがよかれと為した行いを受けとめ、喜んでくれる人々がいる。
(仮面に隠れる必要などなかった――)
息をつぐように唇を離したセレスへ、レオのまなざしは熱っぼかった。
見つめられながらセレスは手を右の頬へやる。
そして――仮面を外した。
「セレス」
レオは軽く目を見開いた。
頬へ斜めに刻まれたのは、薄紅の傷跡。
初めて見せる仮面の下はやや痛々しい。でもセレスはとろけるように笑んだ。
「……私、レオさまの前では何も偽らなくていいの。ずっと怖かったけど、あなたにならすべてを知ってほしい」
「セレス……」
レオは喜びにふるえそうなのを我慢しながら静かに指を傷跡へふれた。そっとなぞる。
「……綺麗に治っている」
「ええ、それは」
「だが顔の傷はつらかったな」
心ない者たちが投げつける言葉にセレスがどれほど苦しんだか。それを思いレオは顔をゆがめた。
傷跡ごときでレオの愛は揺らがない。
そう伝えたくてレオは唇を降らせた。頬の傷跡に。
繰り返し繰り返す、口づけ。
レオの愛の深さを知り――セレスは心の傷も癒えていく気がした。