捨てられ仮面令嬢の純真
  ✻ ✻ ✻

「なんという詐欺師なんですか、あなたさまは」

 ビルウェン商人のギードは、ガックリと椅子に沈み込んで恨みごとを言った。新王はレオになる、とマティアスから告げられたのだ。
 リュシアン失脚のために力を貸したのは、マティアスを王位に押し上げて恩を売るためだったのに。

 王都の小さなギード商会。
 訪れたマティアスは馴染みとなった乱雑な部屋ですっかりくつろいでいる。だましておいて失礼な態度だ。

「詐欺とは心外だな。私は最初から王位など狙っていない。そこを読み切れなかった君たちが甘いんだろう」
「いや、だってですよ?」

 もう礼儀をかなぐり捨ててギードはふて腐れる。

「あなたが言ったんでしょうに。『自分が上に立ったら』って!」
「そっちがそう持ちかけたからだよ。条件未達になるだろうとは思っていたが、可能性はゼロじゃなかったしな」
「詭弁っすねえ」

 それは領土の件。レオが治める地方のことだ。「マティアスが即位したあかつきには割譲の調印をする」と言い交わしたのは無かったことになる。だって即位したのはレオだから。
 しかもそのレオは、実力でべーレンツ伯を撃退し領地を守っていた。だから割譲の理由そのものがない。

「あんなに早く紛争を終わらせて帰ってくるなんて聞いてなかったっすよ……」
「すまんな、有能な弟で」
「わかってて暴動の日を遅らせましたね。本当にひどいや」

 拗ねたような言い方をされマティアスは吹き出した。中年男のくせに、とも思うがあまり憎めない。

「貿易の有用性については新王によーく説いてやるよ。ビルウェンが互いに益のある取り引きを持ちかけてくれるなら、助け合える間柄でありたい」
「――それ、ウチをいい感じにかませてくれますかね?」

 ギードの目が光る。堂々とそんな申し出をされてマティアスはまた、笑った。


< 133 / 144 >

この作品をシェア

pagetop