捨てられ仮面令嬢の純真

  ✻ ✻ ✻

 それから数日後、レオはヴァリエ侯爵家を訪れた。形式的ではあるが結婚の申し込みに来たのだ。
 応接室に通され侯爵相手に堂々と話す姿は好ましい青年騎士。そんな人が何故これまで、どこからも縁談を受けなかったのかセレスは不思議だった。

「――あまり結婚には興味がなかった」

 レオはそう言って微笑む。あとは二人で、と庭園に出されてからのことだった。侯爵をまじえるよりざっくばらんに話せていい。

 初夏。花の香を含んだ風がそよと吹く。
 あずまやの椅子でハンカチを敷いてくれたレオと並んで座り、セレスはなんだか安らかだった。リュシアンからこうして気づかわれたことなどない。新しい婚約者はなんて紳士的なのだろう。

「俺は――ああ、いきなり気安くするのは嫌かな」
「いえ。正式に婚約者となったのですから、お気づかいはかえって嫌です」
「そうか……ええと」

 ここまでは泰然としていたレオが言いよどんだ。何か困りごとでも――と考えて、セレスはピンとくる。

「……私のことも、名で呼んでいただけるとよろしいと思うのですが」
「あ、ああ。では――セレスティーヌ。俺もレオと」
「――レオさま」

 そっと呼んでみたらレオはやや照れくさそうだった。ついこの間まで「公爵子息さま」と言っていたのだからセレスだって落ち着かない。


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