捨てられ仮面令嬢の純真
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それから数日後、レオはヴァリエ侯爵家を訪れた。形式的ではあるが結婚の申し込みに来たのだ。
応接室に通され侯爵相手に堂々と話す姿は好ましい青年騎士。そんな人が何故これまで、どこからも縁談を受けなかったのかセレスは不思議だった。
「――あまり結婚には興味がなかった」
レオはそう言って微笑む。あとは二人で、と庭園に出されてからのことだった。侯爵をまじえるよりざっくばらんに話せていい。
初夏。花の香を含んだ風がそよと吹く。
あずまやの椅子でハンカチを敷いてくれたレオと並んで座り、セレスはなんだか安らかだった。リュシアンからこうして気づかわれたことなどない。新しい婚約者はなんて紳士的なのだろう。
「俺は――ああ、いきなり気安くするのは嫌かな」
「いえ。正式に婚約者となったのですから、お気づかいはかえって嫌です」
「そうか……ええと」
ここまでは泰然としていたレオが言いよどんだ。何か困りごとでも――と考えて、セレスはピンとくる。
「……私のことも、名で呼んでいただけるとよろしいと思うのですが」
「あ、ああ。では――セレスティーヌ。俺もレオと」
「――レオさま」
そっと呼んでみたらレオはやや照れくさそうだった。ついこの間まで「公爵子息さま」と言っていたのだからセレスだって落ち着かない。