捨てられ仮面令嬢の純真
「……レオさま。でも殿下から押しつけられた私のことなど」
「押しつけでもなんでもだ。気持ちを傷つけられただけのセレスティーヌにはなんの咎もない。俺はセレスティーヌを大切にしたいと思っているんだ」
「……もったいないことです」
レオは真実を言っているのだとセレスにも思えた。でもそこで心は立ちどまる。
セレスはそっと自分の右頬をおおう仮面に手をふれた。
「……この傷跡のことは、よろしいのですか」
「俺は騎士だぞ。少々の傷跡ならば俺にもあちこちあるが。見るか?」
「っ! おやめくださいませ」
ひょいと上着のボタンに手をかけたレオにセレスが慌てる。その反応を楽しそうに見守るレオに、セレスはからかわれたのだと理解した。
(この人は――)
セレスのことを「傷もの」と呼ぶことは絶対にしないだろう。
心に傷を負ったセレスのことを優しく受けとめ、なぐさめてくれる人なのだから、頬の傷のこともたぶん拒絶したりしない。そう思えた。
「――ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
セレスはそう言って頭を下げる。
だがレオを心から受け入れ慕って――というわけではなかった。断る自由なんてセレスにはない。これはただ、進んでゆく事態に流されているだけ。
そうとわかってはいたが、うつむくセレスを前にレオは内心で喜びをかみしめた。
――実をいうとレオは、ずっとセレスに焦がれていたのだった。
セレスティーヌ・ド・ヴァリエ。厳しくみずからを律し、献身的に王太子リュシアンを支えてきた女性。聡明で控えめな心根を好ましく感じ、ながめていたらレオはいつの間にかセレスに恋してしまった。
それは報われない想いのはずだった。つい先日までは。
だがおろかなリュシアンはセレスを放り出すという。ならば宙に浮くセレスのことを、どうにかして手に入れたいと思った。
婚約破棄され泣き崩れるセレスを見つめ、今後は自分がそばにいて二度と泣かせるものかと考えた。もちろんその場で口にするわけにはいかなかったが。
どうやって交際を申し込めばいいだろうかと悩んでいた矢先にこんな話になったのだが、それはつまり――レオの想いを知っていた兄・マティアスの策略だった。